2020年3月に日本で薬事承認された「ステボロニン」は、ステラファーマが開発したBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)用医薬品だ。BNCTは人体に影響の少ない熱中性子線とホウ素10の核反応を利用する新しい放射線治療。治療が難しかった頭頸部がんが対象で、試験結果の奏効率は7割。再発脳腫瘍、悪性髄膜腫など悪性度が高いがんへの適用も期待される。
日本での初承認の後、BNCTについてIAEA(国際原子力機関)で国際基準の整備に向けた会合が開かれるなど、国際的な関心も高まった。治療に使う加速器の製造会社は海外展開を計画中で、ステラファーマも台湾や、フィンランドを皮切りにアジア、欧米での薬事承認を目指している。
ステボロニンに含まれるホウ素10はもともと原子力分野で利用されており、ステラケミファ研究部員だった浅野智之が開発に携わっていた。浅野は2000年ごろから医療目的への転用の検討を始め、当時の京都大学原子炉実験所と共同で実験データを集めてきた。BNCTへの期待が確信に変わったのは2002年。耳下腺がんの患者の症例経過写真を見たときだ。1回の照射で大きな改善があった。「がんはつらい病気だが、BNCTがあるから大丈夫、そう言えるようにしたい」。
あさの・ともゆき◎1971年、大阪府生まれ。関西大学大学院応用化学研究課程修了。1996年、橋本化成(現ステラケミファ)入社。2007年ステラファーマ設立、20年より現職。