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2020.12.16 08:00

神戸の八百屋が起こす「流通の変革」

台風21号が近畿地方に甚大な被害を及ぼした2018年の夏。大学4年生だった竹下友里絵は、きゅうり800本を売り回った。知り合いの農家のビニールハウス3棟が破損し、出荷前のきゅうりは「傷物」に。生産者に代わって、竹下が2日で完売させた。「こういう緊急時にこそ、生産者に寄り添える流通業でありたい」。竹下は1年後、八百屋のタケシタを神戸で立ち上げた。

まだ食べられるのに廃棄される食品のロスは日本で年間約612t。世界の食糧援助量の1.6倍相当だ。ロスは生産、流通、消費の3つの過程で発生するが、竹下が目をつけたのは流通過程。「形がいびつ」「大きすぎる」「傷がついた」といった規格外の農産物は、流通に乗せられずに廃棄される。生産者が苦労して育てた農産物。流通を理由に捨てられるのはおかしいと思った。

八百屋のタケシタで扱うのは、その日の朝に取れた地元野菜。畑に足を運び、生産者と話をし、竹下がおいしいと思ったものを選んでいる。規格では選ばない。「『竹下さんのとこで(味はよくても売れないと思っていた野菜が)どこまで売れるか楽しみ』。そう生産者に言ってもらえたのはうれしかったですね」

神戸市内の駅構内などで主に販売する。新型コロナウイルスの影響で駅の利用者が減り、売り上げも影響を受けたが、期間限定の移動販売で新規客が増え、提携する地元スーパーでの販売も始まった。生産者を支援するため値段はほかより少し高い。それでも地元のおいしい野菜を食べたいと選んでくれる地元のファンがついてきた。

野菜はすべて自社便で運び、インターネット販売はしない。そこにも竹下のこだわりがある。「自社便なら天候や収穫の時期に合わせて機敏に対応できる。そもそも我々の仕事は運ぶことです。運ぶのは物だけでなく、物語とみんなの思い。効率性を追求して遠方に届けるのではなく、地域の生産者と消費者をつなげる新しいコンパクトな流通のネットワークを日本中に広げたい。流通の変革を目指しています」。


たけした・ゆりえ◎1996年、神戸市生まれ。高校生でカナダに留学し、フードロスに興味をもつ。関西学院大学総合政策学部入学後、神戸大学農学部に3年次編入。4年目を休学し、インターンシップを経て復学。在学中の2019年2月にタベモノガタリを設立。

文=成相通子 写真=井上陽子

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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