『アトランティック』の12月号で、コネティカット大学教授のピーター・ターチン(Peter Turchin)は、人類の歴史に関する独創的な考えを表した。
ターチンの本職は動物学者だ。キャリアの初期には、個体群動態の分析をおこなっていた。当時の研究テーマは、ある種の甲虫が、なぜある森にいるのか、同じ森からなぜ姿を消したのか、といったものだった。
彼はこうした現象を説明するいくつかの一般原理を発見し、それらがヒトにもあてはまるのではないかと考えた。この疑問を解くにはデータが必要だ。こうして彼は、甲虫の研究から人類史の研究へと踏み出した。
その結果、甲虫と我々には重要な共通点があることがわかった。
ターチンが発見した「繰り返されるパターン」のひとつに、「エリートの過剰生産」がある。
この現象は、ある社会の支配階層が、社会に必要な支配者の数を超えて急激に成長することを指す(なお、ターチンにとって「エリート」とは、政治指導者だけでなく、企業や大学、その他の大規模な社会組織の管理者全般を指す言葉のようだ)。
『アトランティック』の記事はこう説明する。
支配階層が成長する方法のひとつは生物学的なものだ。サウジアラビアでは、王族の役職がつくられるよりも早く王子や王女が誕生する。米国では、良い教育を得て経済的に豊かになろうという動きが、エリートを過剰生産させている。高等教育を受けて豊かになるということ自体は、悪いことではないように思える。我々は、誰もが高い教育を受け裕福になることを願っているのではないだろうか?
だが、お金や「ハーバードの学位」が、サウジアラビア王族の役職のようになってくると、問題が生じ始める。たくさんの人がそれらを手にするが、本当の権力を持つ者はごく一部だとしたら、力を持たない人々はやがて、権力者に反旗を翻す。
エリートの仕事は、エリート人口ほど急速には増えない。米国の上院はいまだに100議席しかないが、自分たちは国政を担うに値するほどの資金や学位を持っていると思う人は、これまでになく多くなっている。
「たくさんのエリートたちが同じポジションをめぐって争い、その一部が反エリートに鞍替えしているというのが今の状況だ」と、ターチンは指摘する。
あぶれたエリートたちは反エリートとなり、下級階層と手を組もうとするが、たいていはうまくいかない。
しかし、衝撃を受けるのは、ターチンが予測する結末だ。
往々にして、迫りくる崩壊の最終的な引き金になるのは国家の財政破綻だとターチンは言う。ある時点で、不安定性は高くつくものになるのだ。
エリートたちは市民の不満を、補助金や配給によってなだめなければならない。それらが尽きれば、もはや不満分子を監視し、人々を弾圧するしかなくなる。
やがて国家は、短期的解決策をすべて使い果たし、それまで安定していた文明が崩壊していく。
恐ろしい予測だ。それに、世界経済フォーラムが「グレート・リセット・イニシアティブ」で提案するシナリオに驚くほど似ている。クラウス・シュワブらフォーラムのメンバーたちは、大勢の人々が抱えるフラストレーションに気づいているはずだ。
彼らは、こうしたフラストレーションを軽減するための、費用のかさむ社会変革プログラムを提案している。
それでもなお彼らは、トップで行われるゲームを続行させようとしているのだ。