英紙ガーディアンが報じたところによると、この実験により、小都市はマーケティング代理店を使ったり、観光客誘致のためのきらびやかなパンフレットを作ったりするよりも、ウィキペディアのページを更新する方が合理的であることが示された。
この実験は、イタリア・トリノの研究教育機関コッレジオ・カルロ・アルベルトのチームが、ドイツの欧州経済研究センター(ZEW)の協力の下で実施。ウィキペディアのページを少し改善するだけで、ホテル宿泊件数は9%上昇し、観光収入は年間12万9000ドル(約1400万円)増加することが分かった。
研究チームはスペインの都市を無作為に抽出し、その都市のウィキペディアページに高画質な写真をアップロードしたり、地元の歴史や名所についての情報を数段落分追加したりした。変更は誰でもできるような内容で、追加部分の大半はスペイン語版ウィキペディアページの文章をそのまま英語・ドイツ語・イタリア語・オランダ語に翻訳しただけだった。
この実験結果は、インターネット上のユーザー生成コンテンツ(UGC)が確かな経済的影響につながることを証明している点で、重要だ。ガーディアン紙によると、研究チームは「これを観光業界全体に広げれば影響は大きい。その影響は数十億ユーロ(数千億円)に上るかもしれない」と指摘した。
しかし、ウィキペディアのこうした活用には、大きな障壁が存在することも明らかになった。ウィキペディアは営利目的の利用が禁止されており(ウィキペディアは広告がないことで有名だ)、サイトの運営は一般からの寄付とボランティアに頼っている。
実験中、研究チームにより多くの情報が追加されていることがウィキペディアのオランダ版上級編集者の目に留まり、今後のアップロードが全て禁止された上、既に追加された内容も24時間以内に削除される事態も起きた。
英紙テレグラフは、ウィキペディアが世界で8番目に訪問者が多いウェブサイトであり、そこに追加される情報も重要なものとなる可能性があると指摘。マイク・ディッキソン博士がニュージーランドを旅しながら、地元住民に観光収入を増やすため「自分の街をアピールする」よう勧めてきた話を紹介している。
ディッキソンは、ニュージーランドにあるフォックス氷河を例として挙げた。同氷河は世界に誇れる見所であるのにもかかわらず、ウィキペディアには400語程度の説明しか載っておらず、言及されているのは死亡事故の数についてだという。ディッキソンは「ウェスト・コースト地方への旅を計画し、有名なフォックス氷河についてネットで調べた人が、この情報を見た後で同地域に滞在・探索したいと考えるとは思えない」と語った。