弱った胆嚢にたまった胆汁は、毒を含んでドロドロになっている。私はこの状態の胆汁を「毒性の胆汁」と呼んでいる。ドロドロになった毒性の胆汁は胆管をスムーズに流れることができない。
胆汁が毒性になる原因は、「コレステロール過多」「毒素の蓄積」「胆管の詰まり」に加え、レシチンなどの胆汁を健康に保つ栄養素が足りないことがあげられる。また血糖値が高いと胆汁がドロドロになったり、胆石ができたりするという研究結果もある。
毒性の胆汁と肥満はコインの裏表だ。ある動物実験によると、肥満の個体が分泌する胆汁の量は痩せた個体のわずか半分でしかないという。
2016年、アメリカ心臓協会の機関誌「動脈硬化症、血栓症、血管生物学」で発表されたある研究では、胆石ができると冠動脈疾患のリスクが23パーセント高くなるとされている。つまり簡単にいうと、胆汁の質が下がると病気になるということだ。
胆汁が脂肪を分解し血糖値を正常に保つ
胆汁とか胆嚢とか、聞き慣れない言葉ばかりでよくわからないという人もいるかもしれない。そんな人は、胆汁は食器用洗剤だと考えてみよう。
「胆汁酸」と「胆汁酸塩」があるおかげで、胆汁は脂肪の球を分解して、より小さな脂肪のしずくにすることができる。このプロセスを「乳化」と呼ぶ。なお、胆汁酸と胆汁酸塩はどちらも基本的には同じものであり、ただ形が違うだけだ。
そこにリパーゼと呼ばれる酵素が登場し、乳化した脂肪を完全に消化することができる。胆汁酸はコレステロールからできていて、胆汁の全成分のほぼ80パーセントを占めている。
まず肝臓で原料が生成され、そこにアミノ酸の「タウリン」と「グリシン」が混入し、胆汁酸の原形ができあがる。タウリンとグリシンが混ざることで水溶性になり、脂肪が乳化しやすくなるのだ。この合成物が胆汁酸塩と呼ばれる。
胆汁酸塩は、小腸の中でバクテリアによって「二次胆汁酸」に変換される。毎日、大量の胆汁酸が小腸に流れ込んでいて、その95パーセントは血流に乗ってまた肝臓に戻ってくる。残りの5パーセントは便と一緒に排泄される。大腸に入った胆汁酸は、水分を集めて便秘を防ぐ働きをする。
大腸内の胆汁が正しく血流に再吸収されないと、「胆汁酸性下痢」と呼ばれる症状が起こる。具体的には慢性的な腹部膨満と水様便だ。胆汁酸性下痢は過敏性腸症候群と間違われることが多い。なお、人口のおよそ1パーセントが胆汁酸性下痢を発症していると考えられる。
胆汁酸は血糖値とも密接な関係があり、Ⅱ型糖尿病患者やインスリン抵抗性のある人は、胆汁酸の量が足りないことが多い。多くの研究により、血糖値を正常に保つには、胆汁が正しく分泌されている必要があるということがわかっている。