格付け会社のフィッチ(Fitch)はつい先日、今後数年間にわたって政府債務の抑制が効果的に実施されなければ、米国は「トリプルA」の信用格付けを失う可能性があると警告を発したばかりだ。
歴史的視点からの分析
政府債務が適正かどうかを調べるひとつの方法が、国内総生産(GDP)、すなわち1年間に国内で産出された付加価値の総額と比較するというものだ。この指標をみると、米国の債務は、コロナ危機以前から急激に増加していた。
GDPに対する負債の割合は、1990年代初頭に50%まで上昇。2008年の世界経済危機を脱した直後に90%に達したあとも、増加の一途をたどった。パンデミック発生の直前、米国の債務は推定でGDPの109%だった。現在はこれをはるかに上回っている上に、GDPが減少するなかで3兆ドル規模の景気刺激策が実施され、さらに追加が検討されている。フィッチの予測では、米国の債務は2021年までにGDPの130%以上に跳ね上がる可能性がある。この指標が40%程度だった1970年代から80年代と比べて、3倍以上に膨れ上がる計算だ。
憂慮すべき事態?
膨大な政府債務は問題に見えるかもしれないが、ほかにも考慮すべき要素は存在する。第一に、現在の金利が非常に低い水準にあることだ。米国政府は現在、1.5%以下の利率で30年間にわたって金を借りることができる。そのため、たとえ債務額が多くても、返済は比較的容易だ。
現在、GDP比の債務は1980年の3倍にのぼるが、当時は10年国債の金利が11%で、今よりも1桁上だった。つまり、債務が多いのは間違いないが、金利が非常に低いために、返済は以前よりはるかに容易になっているのだ。ただし、インフレ率や金利は、多くの人が考えるよりも急速に変化する可能性があることにも留意すべきだろう。
米国の経済力は、債務への対応において明らかに有利にはたらく。米ドルを事実上の通貨として使用している国は多い。米国には、自国通貨が広く世界で使われており、信用を得ているというアドバンテージがある。米国はドルを刷ることができ、ドルが諸外国から求められるかぎり、他国に比べて金融政策の自由度が高い。もちろん、この状態も時とともに変化する可能性はある。しかし、現段階で米国の経済的地位は、債務管理に役立つだろう。