──異例の早さで承認に至ったと聞きましたが、いつごろからこのプロジェクトが始まったのでしょうか。
エムスリーのAIラボは、2017年に設立し、人工知能(以下AI)を活用した医療機器・サービスの研究開発から製造販売承認申請、承認後の販売までを専門性を持ったエムスリーグループ全体で一貫して支援する、AI×医療のプロジェクトに特化した開発支援事業を行ってきました。これまでに、エルピクセル社の医療画像診断支援ソフトウェアなどの研究開発支援などを行っています。
私は昨年ジョインし、主に国内外問わず医療AIベンダーの開拓や、アライアンスの締結、日本での承認取得のサポートを行なってきました。中国、韓国、アメリカやイスラエルの約100社と接点があります。
新型コロナの画像診断に取り掛かったのは、今年の1月ごろです。中国・武漢で大きな問題となっている中で、日本に来るのは時間の問題と思われました。新型コロナに感染すると、8割は軽症で済むものの、2割が重症化しうるといわれています。重症化すると主に肺炎症状をきたし、急激に呼吸機能が悪化することが多く、CT画像が診断に使えそうだと考えていました。
CT画像による医療AIは非常に相性がいいんです。胸部画像に対するAIで主に使われるのはCT画像、もしくはX線ですが、我々はこれまでの経験からX線よりもCTの方が精度の高いAIが作れると知っていました。日本では必要な時にすぐに医師の判断で使える点も重要です。
その頃、早速、中国のAIベンダーが新型コロナウイルスのAIを作っているというニュースが届きました。中でもアリババは学習データの質や量、開発プロセスから有力だと考えていました。
AIラボは前年に遠隔読影でシェアトップのNOBORI社と提携しており、アリババとコネクションを持っていたNOBORI社を通じて、アライアンスのアプローチを始めました。
──AI展開とは別に、3月31日から聖マリアンナ医科大学(以下聖マリ)の医師と協力し、新型コロナの遠隔画像診断コンサルサービスの無償提供を始めています。
3月に入り、想定通り国内でも感染者数が増えて緊急事態宣言の可能性が出てきました。イタリアや米国の医療崩壊の様子が報じられていたころです。AI展開を考えるだけでなく、我々ができることとして、まずは医療現場の医師の負担を減らすための遠隔読影が重要だと考えました。
その頃、聖マリの救急放射線学がご専門の医師、松本純一先生から何か協力できないかとお声がけいただきました。聖マリはダイヤモンドプリンセス号の患者を受け入れた実績があり、日本で新型コロナウイルス患者の肺炎画像の読影を経験した数少ない病院の一つでした。
遠隔読影は無料でやりましたが、聖マリにとっては医療機関として大変な時に遠隔読影を無料で受けるキャンペーンを企業とやる、という決断は大変なものだったと思います。しかし、院長も賛同してくださり、関係者の協力を取り付けて、救急放射線学と放射線学の医師約10人体制で、コロナの疑いの評価を5段階でつける仕組みを整えました。
3月31日にプレスリリースを発表し、開始しました。エムスリーのm3.comから医療機関がID登録をし、画像を匿名化処理した上でインターネットにアップロードすることで聖マリの医師団の判定を受ける仕組みです。