折り紙、宇宙に行く
折り紙は宇宙にも行きました。2010年に太陽光圧を受けて進む宇宙ヨット「IKAROS(イカロス)」の帆を本体に折りたたむ方法に折り紙の手法が採用されたのです。この帆は薄い素材(厚さ0.0075mmのポリイミド樹脂)でできていて、一辺が14mもあります。これが折り紙の要領でコンパクトに本体にたたみこまれ、宇宙でクルクルと回りながら広がったのです。最先端の宇宙実験の現場で、折り紙の考え方が採用されるなんて素敵でしょ?
イカロスの帆が回転しながら徐々に広がっていく様を説明するために、安宅さんが実際に折ってくれた=安宅さん提供
宇宙を飛ぶイカロスのイメージ。前面に広がっているのがたたまれていた帆=JAXAホームページから
折り紙を巡るムーブメント
1990年代には、「展開図」から折り紙を作る手法で、写実的かつ精巧な虫を表現することを競う「昆虫戦争」が日本の作家コミュニティーで起き、海外の作家まで参戦しました。
「昆虫戦争」では、それまでの折り紙では実現できなかった節っぽい6本脚の昆虫や、羽根が飛び出した昆虫が生まれ、リアルさをとことん追求する動きが広がりました。一方でシンプル路線への回帰も起きました。「折り紙らしさ」を追究する動きに揺り戻ったんですね。
折り紙に、ウェットフォールディングという手法があるんです。濡らしてから乾燥させるとその形を留めようとする紙の性質を利用した技法なんですが、厚めの紙を水で湿らせて作るとまた雰囲気が変わってくる。
これ、Gian Dinhの作品・ホッキョクグマです。くしゃっとしただけのようにも見えるのに、なぜかホッキョクグマに見えてしまう。
僕が作りたいなと思うのは、こういうシンプルな折り紙です。解釈の余地があるというか、同じものを見ても人によって受け止めが違う「余白」が残る作品の方がいいと思います。超絶技巧の作品はすごいなと思うけれど、それはそれ。いままでみたことのない新しい見方を常にしたい。同じものをみたときに明日は今日とは違う見方をしたいなあと思っています。
折り紙って、リアルを忠実に再現しているわけじゃない。みんなが「鶴」と思っている折り紙だって鶴本来の姿じゃない。脚すらないですから。
つまり、その折り紙が「鶴」かどうかを決めるのは、見ている側、人間の認知、感性です。脚がなくてもシッポがなくても人間が「鶴だ」「うさぎだ」と思ったらそれになる。折り紙らしさって、人間がどうその作品を見立てるか、だと僕は思ってます。
設計するという理論の部分と、できあがったものをどう見立てるのか、という情緒・感性の部分のバランス。折り紙の面白さって、ここだと思います。僕は、折り紙の作品に「らしさ」を見出す人の感性が面白いと思う。
はい、できた。これも好きな作品です。キツネ。
作品名 狐
制作者 安宅雄一 創作者 笠原邦彦
折り紙界の巨匠・笠原邦彦さんの作品です。ツンとなっているしっぽ、耳の感じもめちゃくちゃいい。抽象化された美しさがある。
AIはこれをキツネと判断できないんじゃないかな.....。じゃあ僕は、何をもってこれをキツネと思ったんだろう。
安宅雄一(あたか・ゆういち)◎1990年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社、スマートフォン向けゲームのユーザリサーチ、プラットフォームの企画等に従事。その後、中学生・高校生向けにIT教育を行うライフイズテック株式会社に入社。中高生ひとり一人の可能性を最大限伸ばすべく、全国の中学生・高校生が対象の企画立案・セールスや、イベント運営・司会を行う。2019年ABEJAに入社。ABEJA Insight for Retailのカスタマーサクセス及びセールスを担当し、データドリブンな組織文化を広め小売業界にイノベーションを起こせるよう奮闘中。
本記事はAIの社会実装を手がけるABEJAによるオウンドメディア「Torus(トーラス)by ABEJA」からの転載です。