時給はどうだったのか。
「時給は日本人とまったく同じです。働きはじめたときはたしか910円でした。でも、大学生になって、学校の近くのローソンに移ったら時給が850円に下がりました」
キャンパスが郊外にあったからだ。
それでも彼は日本のコンビニで働けたことを感謝しているという。
「後半の3年半は複数の店舗を経営しているオーナーのもとで働いていたので、いろんな店舗をまわりました。最終的には時給も1200円まで上がりましたし、土日や祝日にはベースの時給に50円余計につけてくれたり、夏休みや冬休みもあって、オーナーにはずいぶんよくしてもらったと感謝しています」
しかし、大学院への進学とともにコンビニのアルバイトは辞めざるをえなくなった。勉強が忙しいために、拘束時間の長さがネックとなったからだ。
「でも、多くの留学生にとってコンビニはやはり魅力的なバイト先だと思います。深夜帯のシフトに入れば1回でそれなりの額を稼げますし……」
アイン君によれば、欧米に留学するベトナム人と比べると、日本に来るベトナム人留学生は低所得者層出身の子が多いという。彼の知り合いには2DKに8人暮らし、という学生もいる。
『コンビニ外国人』(新潮社刊、芹澤健介著)
日本が好きだからこそ心配なこと
日本人にとって幸いなのは、アイン君のような人達が日本に対して好印象を持ち続けてくれていることだろう。
「日本のことは好きですし、これからもずっと日本と関わっていきたい」
とアイン君は語る。
もっとも、その愛情ゆえに、厳しい言葉も口をつく。
「いま日本には外国人が増えて困るという人もいますが、東京オリンピックが終わったらどんどん減っていくと思います」
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彼の分析はこうだ。ソウルオリンピック以降、開催国の成長率が上昇したのはアトランタオリンピックだけで、それもIT革命の影響が大きい。
「しかし、いまの日本にそのような起爆剤は見込めません。ですから、おそらく東京オリンピックの後は、日本は不況になります。しかも、日銀の超低金利もオリンピック後には上昇する見込みで、企業の資金調達も困難になると思います。同時に日本はすでに労働人口も減り続けているので、本来は外国人の労働力をうまく使わないと経済成長できませんが、外国人はきっと増えません。なぜなら日本は外国人労働者の受け入れ制度が整っていませんし、多くの外国人が『日本は不況だから稼ぐのは難しい』『人出不足で残業が多くなるのはイヤだ』と考えるからです。そうなるとより多くの労働力が減って、日本の経済はますます傾いていくでしょう」
むろん、この見立てが当たるかどうかはわからないし、日本人にとっては外れてほしいところである。
しかし、コンビニという現場を知り、さらに学問の場で知識を深めている若者の意見には一定の説得力があるのではないだろうか。