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2020.02.28

「陸上の港」が物流の世界にもたらす革新|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第2回

左:吉田孝美|右:上田岳弘


「駄目な飛行機は無駄ではない」


──そして吉田運送は、2017年11月に、第2の内陸拠点として「佐野インラインポート」を開設。坂東インラインデポの噂が佐野市に届き、市からの援助もあってのことだった。──

上田:吉田運送さんのインランドデポが、たとえば茨城の常陸那珂港に変わるハブになるのも遠い将来ではないかもしれませんね。「水のない港」の将来が文字通り日本を変えるかもしれない、そう感じます。

今後はどういう展開をして行かれますか? もっともっとマッチング率を上げるために、など?

吉田:メーカーさんの意識改革をしていきたいですね。マッチングの新しい市場として、メーカーさんがストックを、輸入品の納品を終えた空コンテナを使って輸出に回すことを考えてくれれば、マッチング率はもっと上がる。また、海コン以外にも「片荷が空という無駄」現実にあるでしょうから、もっと視野を広げて、たとえば「圏央道エリアにある外資のメガ倉庫をインランドデポとつなぐ」といった構想もありかなと思っています。

上田:最後になりましたが僕の作品『ニムロッド』は、読んでいただいていかがでしたか?

吉田:ともかく「飛ばない飛行機はない」という表現が印象的でしたね。「無駄なことをしても、もしかしたらそこから新しいことが生まれるかもしれないという、そこが……。(編集部注:作中では、元同僚の「ニムロッド」から「僕」へ「駄目な飛行機コレクション」と題された一連のメールが届く)

上田:もしかすると駄目な飛行機になるかもしれないけれども、それでも二の足を踏まないでつくり続ける、そのことに僕は愛おしさを感じるんですよね。吉田さんのインランドデポはタイミングも得て、大きな実を結び、成功ルートを歩んだけれど、もしかすると成功していなかったかもしれない。それでも「木を切っていた」、駐車場を「開墾」してデポに広げていたというその思い出はなくならないですよね。


対談後記・上田岳弘

今回は「内陸港(インランドデポ)」運営のリーディングカンパニー、吉田運送の吉田孝美さんにご登場いただきました。はじめは、「内陸港」という聞き慣れない言葉に戸惑いました。

「港」と言えば、当然「海」にあるものだと思っていたからです。吉田さんに話をお伺いするうちに、「内陸港」は、「通関機能」も持つれっきとした港であることがわかりました。東京オリンピックを控え、ますます海港が混雑するなかで、拠点の拡張により、倉庫不足やキャパ不足への対応も予定されているそう。

毎年のようにおとずれる異常気象での「海港」の機能停止時にも力を発揮する「内陸港」。物流安定における隠れた名プレーヤーの貴重なお話が伺えました。

文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥 作図=福田由起子

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