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2020.02.28 08:00

「陸上の港」が物流の世界にもたらす革新|トップリーダー X 芥川賞作家対談 第2回


芥川賞作家・上田岳弘氏
上田岳弘氏

「できる」と返事してからのネットワーク化


──吉田運送と第1回のラウンドユース契約をした香港の「OOCL」は、月間200台超の輸入白物家電を扱う大手海運会社だ。吉田氏はOCCLから、白物家電の納品先である柏市の東芝ロジスティクスで荷下ろしをし、空にしたコンテナに輸出用の製品を積んでOOCLにまた回せるかと訊かれ、思わず「イエス」と答えたという。──

吉田:実は、弊社だけではキャパシティ的に到底無理だったんですが、とりあえず返事をしてしまったので、同様に海上コンテナ輸送をしている他の運送会社に飛び込みで回り、ネットワーク化を実現した。結果、月間100本、年間1200本の輸送をこなすようになりましたね。

クボタさんもOOCL社と同様、他の船会社にも話をしてラウンドユースの契約を促し、さらには各輸入者にも空コンをインランドデポに返却をさせた結果、クボタ、東芝その他に関するコンテナマッチング率は非常に高くなったんです。

上田:「輸入と輸出を合わせる」というある種「金鉱」を発見したあとで、掘り当てたそのニーズを独占せず、仲間を広げて行こうという発想はすごいですね。

そんなふうにして輸出と輸入のマッチング率が上がり、月間100本もの空コンテナが、御社が坂東市内に持っておられた「車庫」に集まるようになった。そこで「デポ」へと拠点を広げられたわけですが。

吉田:はい、というか、もともと保有していた乳牛飼料の乾牧草輸送用車両のための車庫を広げたんです。まずは地主と交渉して周辺の土地を購入し、チェーンソーを買ってきて、ドライバーたちで木を伐採し、重機もレンタルして地ならしをしました。

上田:「デポ」を新規購入して移転したのではないんですね、それはもうほぼ「開墾」ですね!

吉田:文字通り「切り拓く」感じで。でも、何かを起こそうとする時特有のテンションで、楽しかったですよ。ただ、私は社長としては2代目で、父が築いた「牧草輸送」の基盤からラウンドユースにビジネスモデルを移行するにあたって、もともとの牧草の荷主さんや、また社内からも抵抗感は示されました。牧草の専用車両やトレーラー部隊もあるのに、マッチングがうまく行くにつれて、牧草をあまり運べなくなったからです。

災害にも強い物流システム


上田:まさに「物流の最適化」のリーディングカンパニーになって来られたわけですね。2017年には、地元の常陽銀行と足利銀行にラウンドユースの事業計画をプレゼンして、「めぶきフィナンシャルアワード」の地域創生賞を受賞されたとか。

吉田:はい、おかげさまで、駐車場改めデポの地面強化や夜間照明に2億円ほど投資することができました。集まってくる空のコンテナは、「リーチスタッカー」という7000万円もする大型重機でぶら下げてデポに下ろすんですが、この重機は重いので、普通の地面はへこんで液状化してしまうので、地ならしの工事が必要でした。

投資でいうと、他には無人稼働のシステムを導入しました。チケット制駐車場の「タイムス」のような仕組みです。港で荷受け後、納品先でコンテナを空にして戻るドライバーが、深夜、無人の坂東デポに立ち寄り、パスワードで開くゲート内で「空コン」を「実入り」に入れ替えるんです。ゲート開閉のログを取っておくので、セキュリティもOK、荷主への安心感にもつながって好評です。
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文・構成=石井節子 写真=帆足宗洋 サムネイルデザイン=高田尚弥 作図=福田由起子

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