高齢労働者に映るリセッションの影 米、前回と不気味な符合

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筆者はリセッション(景気後退)の見張り番をやっている。何か手がかりはないか目を光らせている。どうも胸騒ぎがしてならない。「グレート・リセッション」となった前回のリセッションも、正式に始まったのは年の暮れだった。2007年のホリデーシーズンには、今とよく似た特徴がみられた。

当時、高齢の労働者が置かれている状況は良好そうだった。例えば、55歳以上の労働者の失業率は3.2%まで下がっていた。翻って19年10月、高齢者の失業率はそれよりもさらに低い2.6%となっている。かなり低い。低すぎる、と言ってもいいのではないか。

悲観的なデータ解釈になるけれど、失業率はリセッション入りするころに最も低くなることが多く、またリセッションが明けてから1年後も上昇を続けている場合が少なくない。

グレート・リセッションの期間中に失業率が最も悪化したのは、10年7〜9月期で、55歳以上では7.1%を記録した。リセッションには退職年金や住宅資産の価値の低下、失業、賃金の停滞など、いろいろな問題が伴うため、多くの高齢労働者は家計が厳しくなった。また、社会保障給付を計画よりも若い時点で申告せざるを得なくなった結果、受取額が減った人も多かった(次のリセッションにおける高齢労働者の家計の脆弱性についてはこの報告書を参照)。

前回のリセッションが始まる直前の四半期(07年7〜9月期)、高齢労働者の平均求職期間はわずか17週間だった。しかし、失業率が上昇すると、仕事が見つかるまでの期間は長くなる。10年7〜9月期には、55歳以上の人の求職期間は35週間に延び、新しい仕事の賃金も以前よりも大幅に下がる傾向にあった。

まとめると、こういうことになる。現在の失業率は、高齢労働者の労働市場が元気だということを示している。ちょうど、グレート・リセッションの直前の時期と同じように。

賃金はまた別の説明を提供してくれる。高齢労働者の週給の中央値は、前回のリセッションの後はほぼ横ばいで推移してきたが、リセッションが始まる半年前から既に下降線をたどっていて、インフレ調整後で07年1〜3月期の961ドル(約10万5000円)から同7〜9月期の928ドル(約10万1000円)に下がっていた。リセッションのタイミングと関連させて言えば、賃金は失業率が上がり始める前に下がっていた。

では現在、高齢労働者の賃金はどんな傾向にあるか。それはちょっと不気味なものだ。賃金は18年10〜12月期に、前回と全く同じ961ドルから下降し、直近の報告書では916ドル(約10万円)となっている。前回のリセッションが09年半ばに終わった時、高齢労働者の週給の中央値は963ドル(約10万5000円)で、現在よりも47ドル(約5100円)高かった点にも注意を促しておきたい。

経済分野では、状況は悪化する前には良好そうに見えていることが多い。高齢者も含む労働者全体の失業率は、無慈悲なほど悪化する前には信じられないくらい低くなっているのが普通だ。足元の失業率は低いけれど、それがいつまで続くかは分からない。いずれにせよ、失業率の異常な低さとあわせ、高齢労働者の賃金の下落は実に不吉な兆候である。

編集=江戸伸禎

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