だが、価値が変動しないとされるリブラは、それを「貯金」する数多くの人に恩恵をもたらすものになるだろう。連邦準備制度理事会(FRB)が掲げる2%のインフレ目標が達成されても、リブラの価値は下がらないことになるからだ。
FRBには「雇用の最大化」と「物価の安定」という互いに矛盾する目標の実現を目指す役割がある。そして、過去10年近くにわたってFRBが金利をゼロに近い水準に維持してきたということは、物価の安定より雇用の拡大を優先させてきたということだ。
リブラは雇用の拡大に責任を負わない。そのため、価値の安定に必要なレベルまで、金利は上昇することになるだろう。つまり、ドル預金よりも高い金利がつくことになると考えられる。
より高い金利を求める多くの人にとって、リブラはジャンクボンドや発展途上国の国債よりも適切な選択肢となるだろう。
問題は「信頼感」
フェイスブックはまず、数多くの質問に答えなければならない。議員たちが同社やマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)に対し、リブラをコントロ―ルできるのかどうか疑念を持つのは当然のことだ。
ここ1年ほどの間に起きたことから考えれば、同社が自分たちを信頼してお金を預けてほしいと言っても、それは無理な注文だろう。
それでも、公聴会で証言したフェイスブック幹部のデビッド・マーカスの言葉からみれば、同社は正しい方向に進んでいると考えることができる。マーカスによれば、リブラのサービスは議決権を持つパートナー100社と共に提供することを目指しており、フェイスブックは100分の1の議決権を持つのみになるという。
議決権を持つパートナーや意思決定の方法について詳しく知りたいところだが、現時点では、リブラの運営会社がフェイスブックの子会社ではなく、ザッカーバーグが管理するわけではないことが分かっただけでも安心材料だ。
銀行預金より安全?
マーカスによれば、リブラは各国の通貨に1対1で裏付けられたものとなる。そのため、リブラ購入時に預かった通貨が安全に保管されている限り、リブラの運営システムは多くの点で、米国の銀行システムより安全だということになる。
なぜなら、銀行は資金が不足し、預金の引き出しに応じられなくなる可能性があり、そうなった場合の預金者の保護を主な目的の一つとして、中央銀行が存在している。だが、複数の通貨で裏付けられているリブラのシステムは本質的にこれとは異なり、システミック・リスクがかなり小さくなるためだ。
過去およそ10年の間に、何百万にも上る米国人たちが銀行に預けた金額は14兆ドル(約1510兆円)を超えている。だが、彼らが得た利息はほぼゼロだ。
そして、巨額の不良債権を抱え込んだ銀行が資本構成を改善できたのも、政府の不良資産救済プログラム(TARP)によって支援を受けた銀行が公的資金を返済することができたのも、低金利のおかげだ。
リブラは、世界金融危機で打撃を受けながら、そこから立ち直るために株式市場でリスクをとることができなかった米国人たちに、そのための機会を与えるものになるかもしれない。
ただし、リブラがフェイスブックの株主にとって、どれだけの価値を提供するかはまだ分からない。リブラが今のところ、同社株に魅力を与えるものになっていないのはそのためだ。