──ネットワークの共有と集合知は、組織の「舵をきる」上での重要な要素とおっしゃっていますが、双方向に支え合うこの迅速なシステムはどのように構築されるものなのでしょう。
これは、非常に重要な論点ですね。集合知は、個を超越します。ですから、すべてが細分化されているような企業では、マネージャーは個々の能力を適所に配置したエコシステムをつくり、それが組織に付加価値を与えるような構造をつくらなければなりません。
適した人材をどうやって見つけるか。私は、読む、調べる、人との出会いやフォーラム、セミナーなどを通して探す、ということをします。そして、見つけた人材との関係を深める。時機を見て挨拶メールを送る、お礼を伝えるといったちょっとしたことでいいんです。ともかく、知恵を働かせて、集合知を生かした仕事の術を知る必要がありますね。
──反抗心とクリエイティビティ、これらはキャリアを築く上で常に必要なことですか。信頼関係や、物事に真摯に対処する姿勢、プロ意識だけでは、ゴールに到達するには十分でないのでしょうか。
私は、モンテッソーリの提唱する理論を支持しています。自分のやるべきことはしっかりやる、でもそこには、「驚きを与えるような機転」を伴っていなければいけない、ということを考えながら育ちました。
ですから、マネージャーたちを、バジェットとプロジェクトの帳尻合わせのような仕事から解放してあげて、広い視野で思考させてあげたい。そういう視野からしか生まれ得ないチャンスを逃さないよう、心がけています。
──ご自分のキャリアのなかで、あきらめてきたことは何でしょう。
そうですね、ジムに行く時間はないかな。でも実際、ジムにはそもそもあまり興味もないんですけれどね。それより、本を読んだり好きなことをしたりする朝の30分は、自分へのご褒美ですね。
──これまでのキャリアでもっとも「ノー」が言いにくかった場面とは。
ビジネスのシーンでの選択は、時には人間的、感情的な点でジレンマを生じさせることがあります。ですが、好まれない返事でも、できるようにする必要があります。これは実に、まさに子供たちとの関係にも言えますね。「ノー」は、子供とのコミュニケーションにおいて、ある種駆け引きの一部になり得ますから!
──それでは最後にむずかしい質問です。野心とは成功にとって大切な素質でしょうか。
たとえばスポーツ界を見てみると、金メダル獲得には並外れた野心が不可欠です。バレリーナやスキーヤー、ランナーは身体的に想像を超える苦痛に耐えています。拍手を送るしかない。
ビジネスの世界において、とくにヨーロッパの地中海側では、「勝利」へのこういった強い欲求は、「度を越した出世欲」とか、「他を踏みつけてトップになろうとするようなあくどい行為」と見なされることがあります。一方、アングロサクソンの世界では、野心とはクオリティであり、学びの場であり、望むところに到達するための跳躍なんです。彼らから学びたいものですね。