退職までの現職とのコミュニケーションは、必ず「履歴」を残す
また、優秀な人材であるほど、また人材不足のセクションの場合なども、『慰留』されるケースは多いだろう。
「退職までの話し合いについては、必ず『ログ』、履歴を残して下さい。『いつ』『誰と』『どこで』『どんな』話をしたか、メモに記録しましょう。また、メールのやりとりは必ず保存しておいてください。
退職交渉は1~2回ではまとまらず、5、6回は行う覚悟が必要です。『がまん比べ』のようなところがあり、時間もかかり、精神的にも疲労度が高いものです。
ただ、最初からそういうものだと認識しておけば、精神的な負担を必要以上に感じずにすみます。
強力な慰留にひるんで転職をあきらめるケースもあります。しかし、いったん退職の意思を表明した社員に関しては、会社や、現職のミッションへのその後の『エンゲージメント(愛着心や思い入れ)』の点で、懸念を示す上司もいます」
メールの転送や名刺の持ち出しは要注意
それでは労務的には、どんなことに留意すべきなのだろうか?「上杉社会保険労務士事務所」の上杉純一氏に聞いた。
都道府県の無料相談窓口などの経験も含め、社労士として多様な相談を受け、争議のケースも多く見てきた上杉氏によると、とくに同業界への転職の際、「現職の名刺の持ち出し」や「転職先で必要となりそうなメールの転送」は、「競業避止義務違反」として会社が退職者を訴える証拠となる可能性があるという。
「競合する他社に就職した場合、疑われることを防止する観点から、前職の同僚との接触を避けるケースもある」そうだ。上杉氏はこうも話す。
「過去の訴訟事例を見ていてお伝えしたいのは、退職の際に交わす『合意書』は必ず熟読して、『競合他社への転職の際には退職金を減額する』などという項目がないかどうかをよく確認しましょう、ということです。合意書への署名は、『お互いに不満点がないか』を確認するチャンスです。残業代の未払い、有給の処理などについてもよく確認するべきです。いったんサインをすると、『債権債務について労使双方でお互いに確認しました、清算が終わりました』という証拠になります。
また私が雇用主(組織)側に助言を求められた際は、将来のトラブルを防止するため、合意書は、義務ではないものの締結し、在職中に知り得た会社の営業機密や個人情報について、許可なく漏えいしないことを労使双方で確認してください、とお話ししています」
また、上記のような合意書等で債権債務の清算を行っていない場合は、未払い残業代などについて、退職後に「請求」できる場合もあるそうだ。
「もし、未払いの残業代やハラスメントなどに対する慰謝料を請求する場合は都道府県の労働局等に『あっせん申請』を申し立てることができます。それでだめなら、裁判所に訴える『労働審判』という制度もあります。あっせんと違って弁護士に依頼する必要があるため、費用がかかりますが、通常の裁判よりも迅速に和解などの解決が可能です」
━━審判などになったケースはさておくとしても、最近はさらに、一度離職した会社に数年経ってまた戻る、といったケースも増えているようだ。たとえばアマゾンでは、過去在籍していた人材に的を絞った採用活動も行われていて、「ブーメラン社員」といわれる『出戻りアマゾニアン』が少なくないという。企業文化や業務のスピード感を「改めて教える」必要がないことも魅力なのだろう。
いざ職場を去るとき。もしかしたら数年後にここに戻ることがあるかも? そう想像し、思いを込めて「立つ鳥」となってみるのもいいかもしれない。あるいは離職の予定がなくとも、時には「辞めた後で、また自分はここに誘われるか?」を考えながら仕事をしてみては。