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2019.03.21 20:00

たった一夜の睡眠不足が心身にもたらす多大な影響

Stock-Asso / Shutterstock.com

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私たちが眠っている間に、脳はたくさんの仕事をしている。つまり、睡眠は受動的な行動とはかけ離れたものだ。そして、脳の健康のため、メンタルヘルスと認知機能の維持のためにも欠かせないのが睡眠だ。

睡眠がどれほど重要であるか、睡眠不足がどれほど有害なものになり得るかを改めてしめす複数の研究結果が発表されている。睡眠不足は慢性的な場合だけでなく、たった一晩でも有害だ。

睡眠不足が代謝や記憶などに影響を及ぼし得るということは、聞いたことがある人が多いだろう。だが、研究によれば、睡眠不足は不安やアルツハイマー病のリスクとも深く関わっている。さらには私たちの遺伝子のレベルにまで及ぶ、慢性的な問題を起こすという。

不安感の高まり

米カリフォルニア大学バークレー校は、健康な若年成人18人を対象に興味深い研究を行った。一晩だけの睡眠不足が、不安と感情制御にどのように影響するかを調べたものだ。

一部の参加者のみに完全に徹夜してもらったところ、彼らの不安レベルは、前夜と比べて30%上昇していた(睡眠を取った参加者には、変化はみられなかった)。

不安感の程度の違いは、脳の画像検査の結果でも確認された。睡眠を取れなかった参加者たちは、脳の扁桃体がより活発に活動し、恐怖や不安といった感情が引き起こされていることが示された。また、感情をかき立てるような内容のビデオを見ているときの前頭葉(感情を司る)の反応が、大幅に低下していた。

この結果が示唆するのは、私たちの感情のコントロールを助けるのは睡眠である可能性が高いということだ。睡眠不足だった翌日に情緒不安定になっていると感じたことがあるなら、その理由はここにあるのかもしれない。

アルツハイマー病との関連

アルツハイマー病の発症には、アミロイドベータの蓄積につながる脳内の汚れが関連している。睡眠はこの汚れを取り払うことで、認知症の予防に深く関わっているとみられている。

今年2月に発表されたワシントン大学医学部の研究結果は、タウタンパク質に焦点を当てたものだ。タウタンパク質は、アルツハイマー病に冒された脳に見られる「塊」を形成する。

研究チームはマウスとヒトの両方を対象に、幾つかの実験を行った。ある実験では、睡眠を取らせなかったマウスの1匹で、タウタンパク質の量が倍増していたことが確認された。また、ヒトの場合は一晩全く眠らなかっただけでも、タウレベルが50%増加していた。

この研究結果をまとめた論文の責任著者は、「私たちの脳には、日中に受けたストレスから回復するための時間が必要だ」と指摘する。十分な睡眠を取ることがアルツハイマー病の予防につながるかどうかはまだ分からないものの、これまでの研究から得られたデータが示すのは、「発症した場合の進行を遅らせる可能性があるということだ」という。

遺伝子の変化

香港大学は若い医師を対象として、日中と夜間に勤務した後の遺伝子の状態を調べた。その結果によると、たった一晩だけでも眠れなかった医師には睡眠を取った医師と比べ、より多くのDNAの切断と、DNA修復遺伝子の減少がみられた。

研究チームは、睡眠不足ががんリスクの上昇や心疾患、神経変性疾患、代謝性疾患の増加に関連しているとされることは、こうした分子レベルの変化によって説明ができるかもしれないと指摘している。

論文の著者は、この研究は予備的なものであるとする一方、「研究結果から明らになったのは、睡眠が一晩取れないだけでも、慢性疾患の発症につながり得るということだ」と述べている。

編集=木内涼子

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