近年の消費行動は、“インスタ映え”ならぬ“語り映え”がトレンドです。つまり、モノやサービスを選ぶときに、他人に語って気持ちがいい、思わず語りたくなってしまうストーリーを持っているかどうかが、消費の重要な判断基準になってきているということ。
感動させてくれるようなストーリーや哲学を持つ特別な製品を探し出すこと自体が自己表現のひとつとなり、ファッションになっているのがいまの時代です。当然、製造を担う中小企業のモノづくりやブランディング戦略にも大きな変化が起きています。
私がクラウドファンディングサービスの「Makuake」を始めたばかりのころ、ある中小企業メーカーの社長さんにこんなことを言われたことがありました。
「中山くんの事業は、際限なしに拡大を目指すことができていいよね」
私が仕事をしているインターネットの世界では、ユーザーも売上も事業も大きくなればなるほど価値を発揮できるようになっています。私も会社というのは大きくなればなるほど、いいものだと思い込んでいました。
でも、社長にこう言われてハッとしたんです。ユーザーやファンに対していいものを届けようとするモノづくりの場においては、時にそれではいけないことがあるのだと。つまり、事業拡大を際限なしに目指せば、製造効率性が目指す品質を上回ってしまう境界点がやってくる。
しかし、小さすぎる規模では従業員やパートナー企業の生活が豊かにならない。そのトップラインとボトムラインの間で製品の質をたもちながら、自分たちが大切にしていきたい価値観をどう作るか。その両方が叶う「売上規模のスイートスポット」を見極めて、ブランドの価値をしっかりと維持していくことが重要なんだと。
そのときに、売上拡大、事業拡大一辺倒の価値観だけでは、私たちは日本国中にある本当にいいモノづくりをしているメーカー企業とは出合えないのかもしれないと気づきました。それからいままで毎日多くの中小企業の方々と接していますが、やはり二代目三代目と続いていく企業には、自分たちの会社が何を大切にしたいのかがはっきりしていて、その大切にすべきことから逃げずにやりきっている会社が多いと感じます。
自分たちが提供したい価値観を大切にし、それをどうお客さんに伝えるのか。その設計までがこれからますます重要になるでしょう。
リブランディングで新たなファンを獲得
古くから続く中小企業のなかには、昔からある優秀な製品をリブランディングすることで、新たなファンを増やす例も増えています。リブランディングとは、作り手側が「ユーザー体験の新たな切り口」を見つけて、提示すること。
例えば、これは大企業ですが、カルピスを思い出してみてください。かつては「白くて甘い飲み物」という直球の売り方でしたが、最近は「乳酸菌が体にいいよ」という新たな切り口を提示しています。
今回の木村石鹸工業も、「汚れが落ちる洗剤」から「インテリアにしても美しい」というユーザー体験の切り替えによって、ぐっと「石鹸」を「いま」に引きつけることに成功した例ですね。
自分たちの強みや製品ラインナップが提供しているユーザー体験を「因数分解」していくことで、新たな魅力が発見できたりするんです。それによって、これまでとは違うマーケットが開けたり、リーチできなかった層に届けられたり、新ヒット商品が生まれることも。
さらに、リアルの店舗で売るよりもインターネットで売ったほうが、一見不利なようでいて、実はストーリーを伝えやすいという逆転現象も起きています。大規模流通に乗せない売り方でも勝てるようになり、これからますます小さいけれど大きな価値を持つ企業のアイデアが生まれやすい世の中になっていくのでは。
既存の中小企業のポテンシャルが覚醒していく、そんな次の時代の鼓動を感じています。
中山亮太郎◎1982年、東京生まれ。マクアケ代表取締役社長。2006年にサイバーエージェントに入社。メディア事業の立ち上げなどを経て現職。著書に『クラウドファンディング革命』がある。