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2019.03.07

アマゾンの貨物機墜落で見えた「空のブラック企業」の実態

EchoGolf / Shutterstock.com

米国の貨物航空会社「アトラス航空」は、Eコマースの普及を追い風に事業を急拡大させてきた。ニューヨーク州パーチェスに本拠を置く同社は、アマゾン傘下の貨物航空会社「アマゾン・エア」の運行を請け負っている。

しかし、アトラス航空のパイロットは過酷な労働を強いられており、低水準の給与や劣悪な労働環境により離職率が高まっている。2010年以降、アトラス航空が保有する貨物機は29機から112機に増えた。このうち51機がジャンボジェットで、同社は世界最大のジャンボジェットのオペレーターとなった。

同社の貨物機の約4分の1はアマゾン専用で、最近もアマゾンのロゴが描かれたボーイング767を20機購入している。2月23日の午後、マイアミからヒューストンに向かっていたアトラス航空のボーイング767が墜落し、乗員3名が死亡した。墜落の原因はわかっていない。

目撃者によると、墜落した3591便はトリニティ湾の湿地帯に機首から落下したという。フライトレーダーの記録から、同機が墜落の数分前に高度6000フィートから急降下したことが明らかになっている。

アトラス航空が死亡事故を起こしたのは今回が初めてだが、航空安全ネットワークによると、同社はこれまでに重大なインシデントを2件起こしている。2008年にトーゴのロメ空港で離陸しようとした機体が遮断壁を突き破り、2005年にはドイツのデュッセルドルフ空港で着陸した機体が雪でスリップして滑走路から外れて停止した。

アトラス航空は、1992年にパキスタンから米国に移民したMichael Chowdryによって設立された。同社は急成長を遂げてIPOを果たし、Chowdryは9億2000万ドルの資産を築いて米国の長者番付「フォーブス400」にも名を連ねた。しかし、Chowdryは2001年に旧チェコスロバキアで開発されたジェット練習機「L-39」を操縦中に墜落し、46歳の若さでこの世を去った。

2006年にWilliam J. FlynnがCEOに就任して以降、アトラス航空はEコマース向けの貨物便を運航することで事業拡大を図ってきた。国際航空運送協会によると、2013年以降、航空貨物はトン数ベースで年平均4%増加しているが、速達便の成長率はそれを大きく上回るという。アトラス航空によると、UPS、フェデックス、DHLの取扱量は2011年以降年平均7%で増えているという。これに対し、Eコマースの売上高は同期間で年間23%成長している。

新規採用者の半数以上が退職か

Flynnは、2016年にDHL向けに貨物機10機を運航する「サザンエア(Southern Air)」を買収し、アマゾンとパートナーシップを締結した。現在、同社の貨物機の約半数は速達便やEコマース向けに運行している。

アトラス航空の2018年の売上高は、対前年比24%増の27億ドル(約3000億円)と過去最高を記録し、純利益は対前年比21%増の2億7000万ドルだった。

一方で、2016年以降パイロットとの契約交渉は難航しており、パイロットらはアマゾン本社の前で抗議デモを行った。パイロットらは、給与がUPSの機長や副操縦士と比べて48%低く、過酷な労働条件によって士気が低下して離職率が高まっていると主張している。

パイロットの労働組合「チームスターズ・ローカル1224(Teamsters Local 1224)」によると、アトラス航空はこの1年で288名のパイロットを採用したが、145名が退職したという。また、同社のパイロットを対象に行ったアンケート調査では、回答者925名のうち、68%が転職を考えていると答えている。

アトラス航空にコメントを求めたが、回答を得ることはできなかった。同社は、チームスターズ・ローカル1224が誤った情報を流布したと批判しており、安全な運航を維持する上で十分な数のパイロットを雇用できていると主張している。

アトラス航空は昨年、サザンエアのパイロットとの間で、新規契約を締結するまで、他のパイロットと雇用条件を合わせることで暫定合意している。アマゾンは、アトラス航空の競合である「ATSG (Air Transport Services Group)」から貨物機20機をリースしており、さらに10機がいつでも稼働できるようになっている。

アマゾンはアトラス航空とATSGに出資しており、アトラス航空に関しては30%まで、ATSGは33%まで持分を増やすオプションを有している。

編集=上田裕資

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