しかし、この金額に配達員が受け取るチップが含まれていることが明らかになると、同社に対する批判が湧きあがり、同社はプランの撤回を余儀なくされた。
チップは本来、リアル店舗の労働者に支払うものだが、ギグエコノミーを代表するデリバリーサービスもチップ制を採用している。しかし、ギグエコノミーとリアル店舗が異なるのは、ギグワーカーとして働く配達員は独立契約者であり、最低賃金法で保護されない点だ。
インスタカートが昨年報酬ルールを変更した当初、多くの人はチップが最低報酬の10ドルに、追加のボーナスとして上乗せされると思っていた。しかし、実際のところ、チップは最低報酬を埋め合わせるために用いられていたのだ。
そのため、配達員が受け取るチップが多ければ多いほど、インスタカートは配達員に支払う報酬額を少なくすることが可能だった。あるケースでは、配達員に支払われた10ドルのうち、インスタカートが支払った額は80セントに過ぎず、残りはチップだったという。
こうしたことからインスタカートに批判が集中し、同社は「チップを報酬額に含めることは誤りだった」として2月6日、チップと報酬を分ける新ルールを採用すると発表した。
一方、ドアダッシュとアマゾンフレックスは、以前からチップを報酬額に含めるルールとっており、これを改める考えはないという(ロサンゼルス・タイムズの報道では、アマゾンフレックスは配達員らに時間あたり18〜25ドルを支払っており、配達員から不満は出ていないという)。
ドアダッシュは、配達に要した時間や労力に基づいて、アルゴリズムで報酬を算出しており、配達員が多額のチップを受け取っても基本報酬を不当に引き下げることはしていないという。また、基本報酬とチップを合わせても基準の報酬に達しない場合は、差額を追加で支払っている。
インスタカートも同様なアルゴリズムで報酬を計算しているが、ドアダッシュが1件につき最低でも1ドル(多くの場合それ以上)を支払っていたのに対し、インスタカートは最低保証額を設定していなかったため、報酬のほとんどをチップが占める事態が生じたと考えられる。
チップの額に応じて報酬額を調整する方法は、従来のチップの考え方とは大きく異なるように見える。しかし、カリフォルニア大学バークレー校の「Center on Wage and Employment Dynamics」で共同代表を務めるSylvia Allegrettoは、多くの企業がチップによって支払い報酬額を削減できていると指摘する。