完新世は、約10万年間の最終氷期が終わった後の、約1万年前から現代までの比較的安定した温暖な時期を指す。人類が狩猟採集生活から農耕牧畜生活へとシフトしていく、いわゆる定住革命、農耕革命と呼ばれる時期である。
さて、日本では今年、平成の歴史が幕を下ろすために、何かと「平成最後」がブームとなっているが、昨今の地質学の見解では、地球は、平成の30年間どころか、約1万年間続いた「完新世」が終わり、新しい時代「人新世(じんしんせい)」に突入していることになっているのだそうだ。
きっかけは、オゾンホールの解明でノーベル賞を受賞した科学者パウル・クルッツェンが、2000年の国際会議で「我々は完新世ではなく、人新世にいるのだ」と提唱したことだった。
「人新世」とは、「アントロポセン(Anthropocene)」の和訳であり、古代ギリシャ語で「人間」を意味するアントロポス(anthropos)と「新生の」という意味のカイノス(kainos)を結びつけた造語で、人間の活動が地球環境に大きな影響を与えるようになった時代を意味する。
では、この「人新世」、いつから始まったかというと、1784年のジェームス・ワットによる蒸気機関の発明特許の年、言わば産業革命とともに始まったとするのがクルッツェンの説である。産業革命による石炭の大量燃焼は二酸化炭素の増大につながり、さらに石油の使用でそれが進み、人間によって地球環境が激変したからである。
この「人新世」という言葉、ここ1年くらい何度か目にする言葉と思っていたら、今年か来年あたりに国際地質科学連合によって正式にこの呼称が採用されるらしい。ちなみに、千葉県で見つかった地球磁場逆転期の地層から、約77万年前〜12万6千年前の地質年代を「チバニアン」(千葉時代)と名付けることも、同時に審議が進んでおり、いずれも教科書に載るのは時間の問題だろう。
椅子が普及したのはこの200年
昨年末に翻訳が出た「サピエンス異変〜新たな『人新世』の衝撃」(飛鳥新社)は、地球の歴史、人類史の壮大なスケールの中で、現代人の生活と身体、健康を捉える、その説得力あるリアリティのあまり、生活習慣を変えたくなるようなインパクトを持つ1冊だった。
著者はイギリスのケント大学のヴァイバー・クリガン=リード准教授で、環境人文学と19世紀英文学を専門とするため、著書の中で取り上げられる話題は人類史、古典文学、健康、環境問題と幅広い。
それによれば、二足歩行した最初の人類は800万年前まで遡れるらしい。チンパンジーから分化した類人猿は、その後、歩くことで進化を遂げた。初期人類は毎日8キロから14キロほど歩いたと推測されているので、だいたい1日に2時間から4時間くらいは歩いていたのだろう。
そして、休む時はしゃがんだ。狩猟採取時代には椅子は存在せず、食べ物を求めて歩きまわっては深くしゃがんだ姿勢で休息し食事することが快適であった。そのため人類はまだ定住に適応していなかったと言うのだ。