NASAの探査機はどうやって火星の「風の音」を聞いたのか

NASA 火星探査機(Photo by NASA/JPL-CALTECH/MSSS / HANDOUT/Anadolu Agency/Getty Images)

火星に降り立ったNASAの火星探査機「インサイト」は、エリシウムと呼ばれる広大な平原で任務にあたっている。インサイトは最先端の地震計や気圧センサーなどで調査を行っている。そして12月1日、不気味な空気の音のようなものが録音された。

そのサウンドは、太陽光パネルが風によって揺れたことを地震計が感知して得られたデータから再現された。サイト上に公開された音源ではまず、通常のオーディオ機器では再生できないような重低音が続くが、少し経つとその音を2オクターブほど高く加工した音が聴ける。

インサイトの科学チームの一員で、インペリアル・カレッジ・ロンドンのトム・パイク(Tom Pike)は、探査機が巨大な耳のような役割を果たした説明している。

「探査機の左右についている太陽光パネルは風による圧力変動に反応する。それはまるで、インサイトが耳に手を当てて火星の風の音を聴いているかのようだ。太陽光パネルから伝わってくる振動の方向を調べたところ、着陸地点における風の方向と一致していた」とパイクは述べた。

映画「オデッセイ」の中で、火星では強力な風が吹いているとされているが、実際は地球の風よりも弱い。それは火星の大気が地球と比べて99%も薄く、気圧も圧倒的に低いため、地球ほどの風の強さにならないからだ。

それでも大規模な砂嵐を巻き起こすだけの威力はあり、時には火星全体を覆うほどの砂嵐も発生する。背景には火星が乾燥していることや砂塵が多いことも要因だが、火星の軌道も影響している。地球は太陽の周りを円に近い形を描きながら回っているが、火星の軌道はより楕円形に近いため、太陽から最も遠い時と最も近い時との差が地球よりも大きい。

つまり、夏の火星では特に南半球に太陽光が豊富に届く。それにより大気が上昇し、簡単に砂塵が舞い上がるのだ。

砂嵐は太陽光パネルで稼働する機器にとって大きな問題となる。火星探査機「オポチュニティー」も砂嵐に巻き込まれ、通信が途絶えてしまった。インサイトが同じトラブルに見舞われないことを祈りたい。

編集=上田裕資

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