マネジャーは、部下に指示を与えるだけでいいと考えがちだ。米国でも、大半の人々が働いているのは、シリコンバレーの米コンサルティング会社IDEOのような、啓発的でクリエイティブな職場ではない。
目標を達成できなかったら上司から怒られるのではないか、ボーナスをもらえないのではないかと恐れ、発言に二の足を踏むのが常だ。
そのため、チームリーダーには、不確実性と相互依存性を部下に認識させ、心理的安全のための合理的な環境づくりという大きな役割が求められる。そうした土台を築き、実現させるには、常にこの問題に関心を持ち、努力する必要がある。
──技術進化とグローバル化により、企業環境は、複雑さと不透明さがさらに増すものと思われます。未来から選ばれる企業の条件と理想的なリーダー像とは?
かつてないほど先を読みにくくなっているのは確かだが、その分、未来を予測するためのツールや専門家が増えた。物事は予測できるものではないが、予測を試みる活動は有益だ。最も大切なのは、種々のアイデアを試しながら学び、何がうまくいって、何がうまくいかないかをつかみ、前に進むことだ。
企業が成功するには、そうした力が必要だ。実験しながら学ぶことを習慣化し、学習・イノベーションプロセスを組織化することで、境界を超えたチーミングを後押しできるような企業が生き残る。
理想的なリーダーは、より良い世界の構築に情熱を抱き、他の人々の活動に好奇心を持ち、自社の前途について謙虚である人だ。
未来のリーダーは安易に答えを求めたりせず、次に何が起こるか好奇心を持ちつつ、謙虚さを忘れてはならない。短い周期で学習と実験を反復しながら前進することにたけている必要もある。
未来には困難が待ち受けているが、日本は集団志向が強く、コミュニティを重視し、大切なことを成し遂げるために協働するという歴史と文化に裏打ちされた国だ。世界が直面する問題に立ち向かう際、これらは大きな強みになるだろう。
エイミー・エドモンドソン◎ハーバード大学ビジネススクール教授。専門はリーダーシップと経営論。経営、医療、教育分野に大きな影響をもたらした「心理的安全」に関する研究のパイオニアとして知られる。経営思想家ランキング「Thinkers50」の常連で、2017年にはタレントアワードを受賞。組織行動の博士号、心理学の文学修士号も持つ。