米ロングアイランド大学ポスト校のウダヤン・ロイ教授(経済学)は、「インド政府は選挙に勝つため、RBIを破壊しようとしている」と批判する。RBIの独立性は長年、自国に安定したマクロ経済環境を提供し、強大な中国をも上回る経済の急成長を支えてきた。
今年の経済成長率は中国が6.6%だったのに対し、インドは7.4%を記録。また、仏銀行大手BNPパリバが先ごろ発表した報告書によれば、2019年の成長率は中国が6.2%になると見込まれる一方で、インドはそれを大きく上回る7.6%になると予想されている。
「数字」は国民生活に反映されず
好調な経済は、再選を目指すモディの追い風となってきた。だが、来年の選挙で勝利するためには、それだけでは十分ではない。力強い経済成長や活況を呈する金融市場の恩恵が、一般市民に行き渡っていないのだ。
国としてのインドが経済成長の「階段を上る」中で、国民は逆の方向へと進んできた。調査会社ギャラップが今年8月に公表した報告書によれば、現在の生活状況を10段階で評価するといくつになるかという問いに対する回答は、2014年には平均4.4だったものの、昨年には過去最低水準となる平均4.0に落ち込んだ。
これより以前に実施された調査でも、「生活が豊かになっていることを実感できる」という国民の割合がモディの就任以降、大幅に減少していることが明らかになっている。そう考える国民は2014年に14%だったのに対し、2017年にはわずか3%だった。
経済成長率と国民の実感がこれほどかけ離れている背景には、何があるのだろうか。一つには、高い技術を必要としない仕事に就く労働者の平均月給が今年、モディが就任した2014年の1万3300ルピー(約1万6300円)から1万300ルピーに減少していることがある。
また、インドの生活賃金は月額1万7300~1万7400ルピーで、モディが首相になって以降、ほぼ変化していない。さらに、食品価格の上昇も理由として挙げられる。ギャラップの報告書によれば、地方部を中心に、食品を手に入れるのが困難になっている。
脅かされる中銀の独立性
大衆の支持を得て選挙に勝つためには、モディは現在の状況を改善しなくてはならない。そして、政府支出を大幅に増やすという従来の方法で、短期間のうちにそれを実現しようとしている。
ただし、そこには大きな問題がある。政府債務残高がすでに、多額に上っていることだ。ロイ教授は、選挙に勝ちたいモディは「需要の底上げを図ろうとしている」と指摘する。そこで政府は、借り入れをせずに支出できる資金を増やしたい考えだ。だが、RBIは紙幣の増刷を拒否している。
一方、インドの銀行は多額の不良債権を抱えている。同教授によれば、RBIはそうした銀行にも「厳しい態度を取るようになっている」。
「企業向けの銀行融資は急減している。企業は政府に対し、RBIへの不満を訴えている。そのため政府はRBIに、政府系銀行への圧力を緩め、自由に融資を行えるようにすべきだとプレッシャーをかけている。だが、RBIはこうした干渉も嫌う」
銀行が自由に貸出を行うことができなければ、来年の総選挙での勝利は危うくなる。そのためにモディは、RBIの独立性を犠牲にしようとしている。