無能だった私を変えてくれた凄い人たち──元オグルヴィ共同会長 タム・カイ・メン(前編)

面白いアイデアを見た時のカイは、童心に戻ったように微笑むのでした(Photo by Ben Gabbe / WireImage)

このコラムでは、私の仕事の仕方、向き合い方を根本から変えてくれた恩人を紹介します。業種は違っても、何かを極めた一流の人たちの言動は、きっと、皆さんの仕事に役立つこともあると思います。

5人目は、Tham Khai Mengさん(タム・カイ・メン。以後、カイ)。

先月まで、世界最大の広告会社グループWPPの中のOgilvy(以後、オグルヴィ)のWorldwide Chief Creative Officer(クリエイティブ部門の世界トップ)であり、Co-Chairman(会社の共同会長)も務めていました。アジア人で初めて、ワールド・ワイド・エージェンシーのクリエイティブ部門のトップに立った人です。

白人がつくったシステムの中で、政治的な争いも多いニューヨーク本社で、初めてアジア人がトップを張ることは、どんなに困難が多かったか……想像するだけで、ぞっとします。

今後、アジア人からも世界展開する広告会社のトップに立つ人は出てくるでしょう。でも、何でも一番最初にやった人が、一番難しいのです。広告界に新たな歴史をつくり、アジアの広告界の若者に大きな希望をつくったのが、カイです。

2004年、電通からオグルヴィに転職した数カ月後、私は、カイ主催のアジア太平洋地域のCD(クリエイティブ・ディレクター)会議に呼ばれました。当時のカイは、アジア太平洋地域のクリエイティブのトップでした。

そこでは、各国が制作した仕事をその国の代表CDが発表し、互いに刺激を与え合いながら、各国が抱えている制作環境の問題を共有し、解決するために意見を出し合うのです。

しかし、この会議、限界まで膨らんだ風船のように張り詰めた空気の中で進むのです。それは、司会者でもあるカイのコメントが容赦ないからでした。

素晴らしい広告を見せた時は、心の底から褒めてくれますが、駄作を見せると、コテンパンに叩かれるのです。その時、CDがそうなるに至った事情などを言い訳しようものなら、火に油を注ぐことになります。ある年の会議では、初めて参加したCDが、その洗礼を喰らい泣き出したくらいです。 

「こんなアイデア、クオリティのレベルで満足してはダメだ!」

「なぜ、新しい表現に挑戦しようしないのか!」

「クリエイティブのリーダーとして、志をもっと高く持て!」

ということを、いろんな言い方でカイは伝えていました。
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文=松尾卓哉

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