ブロックチェーンのことを知ったときに途上国の子供たちを救えると思った、と言うのは、イーサリアム財団エグゼクティブディレクターの宮口礼子。
高校教師を務めたのちに米サンフランシスコ州立大学でMBAをとり、食の不均衡をなくすことをミッションとするNPO団体「TABLE FOR TWO」を経てブロックチェーン業界に入った彼女は、この技術が「より透明性があり、バランスのある世界をつくるために役に立つ」ことを直感的に理解したという。
そんな彼女がイーサリアム財団に加わったのは、ヴィタリック・ブテリンをはじめとするメンバーたちが、まさに彼女と同じ世界を目指していたからだ。
「彼らがやっていることはもちろん技術的にも優れていますが、それ以上に財団には、この技術を使って『きちんとした世の中をつくりたい』というビジョンがあります。どんなに大きな力をもった国や企業でも、パブリックの力をまとめることができればそれに勝てるものはない。ブロックチェーンには、みんなのビジョンをまとめる力があると思っています」
目の虹彩や指紋などの生体情報を数値にすることで国に頼らず難民のIDを発行する「EverID」、チャリティに寄付をしたお金の使われ方やそのインパクトを寄付者が把握できるロンドンを拠点にするソーシャルファンディングプラットフォーム「Alice」、資金不足の教育機関のために地元の人々が少額ずつ寄付することで教育格差の是正を目指すニューヨークの教育ファンディングプラットフォーム「eduDAO」、ヨルダンの難民たちが虹彩認証によって難民キャンプ内のスーパーマーケットから食品を購入できるようにする国連WFP(世界食糧計画)によるプロジェクト「BuildingBlocks」など、世界中ですでに「ブロックチェーン×ソーシャルグッド」の取り組みが始まっている。
とはいえ、まだまだ黎明期にあるブロックチェーン技術を使った革新的なアプリケーションが生まれてくるのはむしろこれからだろう。「途上国で何百万の人々をサポートできるシステムをつくれれば、多くの不均衡がコロコロと解決し始めるはずです」と宮口は言う。
あらゆる技術と同様、ブロックチェーンも使い方を誤れば社会に悪影響を与えるものになるだろう。しかし宮口たちにはいま、頼もしい先輩たちがいるという。
『Whole Earth Catalogue』創刊者のスチュアート・ブランドやインターネットアーカイブ創設者のブリュースター・ケールなど、宮口の言葉を借りれば「インターネット時代のヒーローたち」がイーサリアム財団のビジョンに共感し、インターネット黎明期の失敗をシェアしてくれているのだ。先人たちの叡智と若者たちの揺るぎない正義感が組み合わさったいま、宮口には以前にも増して“革命”を起こす自信があるという。
「まだまだ多くのことを成し遂げなければいけませんが、いずれヴィタリックにノーベル平和賞をあげたい」と彼女は笑う。「本当にそうしたレベルでの変化を起こせると思うんです」
宮口礼子◎米サンフランシスコ州立大でMBA取得。TABLE FOR TWO、米仮想通貨取引所クラケンを経て、2018年2月、イーサリアム財団エグゼクティブディレクターに就任。日本ブロックチェーン協会創設メンバー。