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2018.08.20 16:00

ソニーコンピュータサイエンス研究所所長 北野宏明「20代のうちは混沌の中に飛び込み、世界を広げ続けよ」


これから世界を変える人たちが集って、実際にいろんなことが変わっていく様子をまざまざと見せつけられた。

当時は湾岸戦争が勃発した時期で、戦争の当事者国にいたというのもかなり緊張感がありました。自分が住んでいたところの通りの反対側に、軍関係の研究所があって、いきなり武装警備が始まりました。

並列マシン用の基板を発注したら、巡航ミサイル向けの基盤が優先と言うことで、納期が数ヶ月先になってしまったこともあった。まさに戦争当事国ということを実感しました。

収集がつかない複雑さに飛び込みたい

いま20代に戻ったら……ですか。ほぼ間違いなく、会社を立ち上げているでしょうね。いまの起業環境は非常にサポーティブだし、それなりの規模にまでグロースする資金も調達できる。

若い時期には、いろんなものを見て、実際にやってみるのが大事。例えば、アメリカにいた頃に鉄道でいろいろな所に行きました。

あるとき、サンフランシスコからピッツバーグへ鉄道で旅行したことがあります。まずは2泊3日、55時間かけて知り合いがいるシカゴまで行くのですが、その途中のコロラドやユタには、何にもないところに家がポツンと立っています。飛行機で上から眺めてもただの家としか思わないけど、鉄道で旅をするとそこに住んでいる人たちが想像できて、すごくリアリティを感じてしまった。

朝起きて、トウモロコシ畑で、また少し寝てから外を見ると同じ風景。列車が止まっていると思うくらい、何時間も延々同じ風景が続いている。米国の広大さを実感しました。これは飛行機から見ているのとは全然違う感覚でしたし、そういう所に住んでいる人はどういう生活で、どういう人生の送るのだろうかと想像して、人生の多様性に気づかされた気がします。

もちろん頭では、自分が知らない世界があることは分かっていたのですが、実際にいろんな場所に赴くことで改めて実感することがありました。いま振り返れば、僕ももっと早くから海外に出てもよかったのかもしれないですね。 結局、やってみないとどうしようもない。だから僕は色んなことをガシガシやってきた。失うものがない時期に挑戦するのが大切ですね。


では、何に挑戦すればいいか。僕の場合、振り返ってみると、「収拾がつかないこと」に挑んできたように思います。

計算機科学で博士号を取得した後、生物学の分野に研究を広げました。人工知能は、広い意味で知能に関する研究ですが、知能は進化の副産物だと考え、それなら生命をよく理解する必要があると思ったからです。

実際に、研究を始めると、当時の生物学は、かなり混沌としているように見えました。そこで、計算モデルやデータ解析、さらに制御工学などを使って生命の設計原理を理解することにチャレンジしました。このプロセスで、システムバイオロジーという分野を提唱しました。いまでは、システムバイオロジーは、生命科学のコアな分野として定着しています。

システムバイオロジーを提唱してから20年が経ちますが、そこで分かってきたのは、システムバイオロジーは、対象が複雑で、人間が独力で研究するには、我々の認知能力が不足しているだろうというとこです。そこで、今後は、人工知能による科学的発見を実現したいと思っています。まだまだやることはたくさんあります。

ぜひ、若いうちにこそ、自分が知らない世界、誰もよくわかっていない複雑な世界に飛び込んでみてください。新しい道が拓けるはずです。



北野宏明◎ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長・所長。1984年国際基督教大学教養学部理学科卒業、京都大学工学博士号取得。NECを経て、93年株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、2011年に同代表取締役社長就任。

文=野口直希 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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