同社ホーチミン支社の木戸あゆみさんによると、ベトナムにはかつておむすびに似たような食べものがあったそう。ごはんをぎゅっと押し寿司のように固めてカットする「COM NAM(コムナム)」という食べもので、おむすびと言うよりは、ごはんを握らずに具材をサンドする「おにぎらず」に近いイメージだ。
ところが、「コムナムに戦時中の貧しいイメージと重ねてしまい、おむすびに対しても良いイメージを持っていない人もいた」と木戸さん。米文化があるといっても、ベトナムではまさかのマイナスイメージからのスタートだった。
しかし、最近ではホーチミン市内でチェーン展開する日本のコンビニエンスストアでおむすびを販売していることもあり、若者を中心に評価やイメージが上がってきているという。
ベトナムの日本系スーパーで売られているおむすび(筆者撮影)
東京むすびの店頭メニューは、鮭や塩昆布などどちらかというとシンプルなラインナップ。ベトナムの人たちに人気の具材はツナマヨで、日本人が好きな鮭も支持されている。
とはいえ、ベトナムでもやはり食の嗜好の壁はある。現地では味の濃い肉や魚をおかずにごはんをかき込むように食べるため、粘りがあって、どっしりしたジャポニカ米はなじみにくい。しかし、パサっとした長粒種の米をひとまとめにし、おむすびをつくるのは難しい。そこで東京むすびでは、ベトナム人を意識してごはんを多少硬めに炊いているという。
おむすびは食の親善大使
一方で、あえて米文化のない国に進出したのは、日本で首都圏を中心に43店舗を展開する「おむすび権米衛」だ。海外ではアメリカ・ニューヨークとニュージャージーの2店舗に続き、2017年11月にはフランス・パリに海外初の路面店もオープンした。
使っている米は、日本の契約農家の米。米文化がないパリでおむすびが受け入れられるのだろうかという当初の心配は杞憂に終わったようで、天むす、和風ツナ、うなぎなどこってりしたものが人気だという。かつては、真っ黒な見た目で欧米で嫌厭された海苔も、現在ではまったく抵抗なく受け入れられているそうだ。
パリに路面店としてオープンした「おむすび権米衛」(写真=おむすび権米衛提供)
シンガポール、ベトナム、そして、食の都パリ。他にもアメリカや香港などでも、それぞれの国の食文化を受け入れながら、現地の人々にも支持されていくおむすびは、なんと懐が深いのだろう。
海外でかたちを変えていくおむすびは「もはや日本食ではない」と言う人がいるかもしれないが、おむすびは、日本と世界の国々を「結ぶ」、食の親善大使となる可能性に溢れている。
連載 : 台湾と日本のお米事情
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