あるフランス外資系のCEOにお会いした際、スポーツ界のプレッシャーやストレスの中で、自分や組織のパフォーマンスを発揮するためのメンタリティをビジネスマンにも教えてほしい、と提案・依頼された。彼にとっては、チャンピオン、つまりスポーツ界の一流アスリートの思考が、ビジネスマンの仕事のレベル向上に役立つという考えだ。
「チャンピオン」という言葉はスポーツだけでなく、ビジネスマンをはじめすべての人に通じる。それは「優勝者」という意味だけではなく、一流の生き方の象徴なのかもしれない。スポーツが文化だと考える、海外のCEOならではの発想だろう。
そこで、わたしが日々のメンタルトレーニングにおいて、アスリートにもビジネスマンにも伝えている「チャンピオンの視野」という考えを紹介する。それは、結果を生み出すための普遍的なセオリーに基づいた見方、すなわち視野である。
すべてビジネスパーソンは何らかの結果のために生きており、その例外はないと言っても過言ではない。そのために必要なのは「認知脳」だ。
多くの人は、行動と外界、そして物事の意味や自分自身の技だけを四六時中考えている。この結果だけを見る視野のことを、わたしは「凡人の視野」と呼称している(図1)。「凡人の視野」では、脳内がごちゃごちゃしていて、自分自身の思考がシャープでなくなっている。つまり、結果も出にくい。
図1:凡人の視野。認知脳だけが暴走して働き、結果ばかりを意識して心が整っていない
一方で、「チャンピオンの視野」(図2)は全く違う。結果を生み出す行動には、自分自身を構成する要素に「心体技」があることを熟知している。凡人の視野では、この「心体技」のバランスが軽視されやすい。特に自身の心の状態を支える土台となるライフスキルの重要性に気づかず、自らストレスがかかる状態に導いてしまうのだ。
図2:チャンピオンの視野。ライフスキルが全ての土台となる心を整えている。
この状態を「ノンフロー状態」という。ノンフロー状態では、自分自身の行動やパフォーマンスはますます悪くなる。そこで、土台、つまり自身の心を支え、揺らがず・とらわれずの自然体な状態に整える脳のことを認知と区別し、私は「ライフスキル」とも呼んでいる。ライフスキルは、心という不安定なものを安定させる“土台の土台”とも言える脳機能だ。
ライフスキルを磨いていないと、土台がいつも不安定な状態で、継続的に結果を出すことは難しい。それは、スポーツはもとよりビジネスも人生も同じである。結果と行動と自分の関係という、自分自身を構成する要素の全体像をしっかりと理解し、自己研鑽・自己投資をしているのがチャンピオンの視野だ。つまり、ライフスキルを身につけることは一過性のストレス対策とは明らかに一線を画す、チャンピオンの視野に基づく生き方の土台となる必須スキルなのだ。
ライフスキルのトレーニングをすることがチャンピオンの視野を生み出すのか、チャンピオンの視野をもとから持つ人がライフスキルのトレーニングをしているのかは不明だ。しかし明らかに、この視野に興味のあるアスリートとビジネスマンが急増し、成果を生み出しているのは事実だ。チャンピオンの視野で生きる人材が世界中で増えることを心から願っている。
連載 : スポーツ心理学で紐解く心の整え方
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