米イエローストーンの巨大火山「大噴火の予兆説」の真実度

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米中西部の3州にまたがるイエローストーン国立公園は、かつて巨大な火山があった地域で、今も地下にはマグマが広がっており、1万以上の温泉が湧いている。そのイエローストーンの付近で大きなヒビ割れが発見され、火山が噴火するのではと大騒ぎになっている。

しかし、最初にはっきりさせておくと、イエローストーンで火山が噴火することはない。米国の国立公園局はイエローストーンの南のグランドティートン国立公園の2つエリアを「最近拡大しているヒビや割れ目」の影響で閉鎖したと発表した。現地では30メートルの巨大な岩の裂け目が出現している。

ただし、当局が懸念しているのは観光客がいるような場所に岩が落下することだ。当局はひび割れの状態や拡大の速度、岩の安定性などを調査している最中だ。

しかし、地質学や火山の知識がない一部のジャーナリストが、「イエローストーンのスーパーボルケーノ(超巨大火山)が噴火する」という記事を書いたせいで、騒ぎが広がってしまったのだ。

イエローストーンが万が一噴火した場合、240立方マイル(約1000立方キロメートル)のマグマが噴出し、数十年間に渡って「火山の冬」が地球を覆い、複数の州にまたがるほどのクレーターが出現するとされる。

しかし、米地質調査所の発表によると近い将来、イエローストーンで巨大噴火が起きる確率は73万分の1(0.00014%)だという。これは壊滅的な小惑星の衝突が起きる確率とほぼ同じ数字だ。さらに、イエローストーンは世界で最も監視されている火山の1つであり、今のところ噴火の兆候は全くない。噴火する場合には、数年前にも兆候が見られるはずだ。

人間は現実的なリスクよりも、得体のしれない恐怖に目を向けがちだ。交通事故で亡くなる可能性と、イエローストーンが噴火する可能性の生涯リスクを比較してみよう。交通事故については2014年のアメリカでの統計に基づき、イエローストーンの噴火の確率については米地質調査所が発表した数値(0.00014%)を米国人の平均寿命の78.74歳に掛け合わせて算出した。

その結果、生涯を通じて交通事故で死ぬ確率は0.8772%であるのに対し、イエローストーンの噴火に遭遇する確率は0.0108%であることが分かった。つまり、交通事故で死ぬ確率のほうが、イエローストーンの噴火に遭遇する確率よりも81倍も高いのだ。このデータさえ知っていれば、恐怖感をあおる記事を目にしてもさほど怖くはないだろう。

編集=上田裕資

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