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2018.07.26 08:30

資金繰りへの懸念高まるテスラ、大株主が競合相手にも出資

Nadezda Murmakova / shutterstock.com

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何としても自社の株式を売らずに資金を調達しようとする米電気自動車(EV)メーカー、テスラは、奇策とも呼べる試みにまで手を広げ始めた。複数のサプライヤーに対し、過去に支払った代金の一部を返還するよう求めたと伝えられている。

“イーロン・マスク株式会社”はキャッシュフローをプラスにできないまま、自社のインフラ構築に多額の資金を注ぎ込んできた(先ごろ報じられた人員削減の実施前で、従業員はおよそ4万人に上るとみられる)。それでもテスラを愛する“テスラファイル(Teslaphile)”たちは、「イーロンは自動車業界を破壊している」とのマントラをやみくもに繰り返している。

だが、負債とキャッシュバーン(手元資金の減少)の額が膨れ上がり、破滅的なソーラーシティ(マスクは同社の会長でもある)の買収によるレガシーを抱えるテスラについては、「同社こそが破壊される側」と言う人たちもいるかもしれない。

筆者の考えでは、その破壊を起こすのは中国の新興EVメーカー、NIO(ニーオ)だ。創業者ウィリアム・リーは、ニューヨーク証券取引所に上場した自動車情報サービスのプロバイダー、BitAuto(易車)によって財を成した。

“完璧な”EVメーカーを立ち上げようとする人は、ソフトウェアとハードウェア、デザインの拠点をそれぞれ、シリコン・バレーとドイツ、英国に置こうとするだろう。さらに、自動車の組み立ては中国で行おうとするはずだ。生産コストを抑えられる上、中国は世界最大のEV市場でもある。

リーは実際に、これらの条件を全て満たしている。NIOは米カリフォルニア州のサンノゼにエンジニアリング・センターを持ち、独ミュンヘンと英オックスフォードにデザイン・センターを構えている。組立工場は上海にある。リーは完璧で、かつ強力なEVメーカーを設立した。そして、テスラこそが競争相手であるとの考えを隠していない。

自動車メーカーの創業には、非常に大きな資本が必要だ。だが、スタートアップのデータベース、クランチベースによれば、NIOはすでに過去4回の資金調達ラウンドで約21億ドル(約2337億円)を調達している。

シードラウンドは中国の大手企業テンセント(騰訊)とバイドゥ(百度)が主導した。シリーズDラウンドでは、英資産運用会社ベイリーギフォードなども出資している。

一方、テスラが最近の株主総会向けに作成した書類によると、ベイリーギフォードは昨年末時点で、テスラ株のおよそ7.5%を保有している。マスクとフィデリティ・インベストメンツに続く3番目の大株主だ。テンセントも昨年、5%未満ではあるものの、テスラ株を取得している。

つまり、テスラの大株主(合わせて12%以上を保有)は、同社の有力な競合他社にも出資をしているということだ。競争が高まるなか、スマートマネー(先見の明がある投資家の資金)はリスクヘッジを図っているということを意味する。テスラ株を買わなくても、バッテリー式電気自動車(BEV)や自動運転車の関連企業に投資することは可能だ。大手機関投資家は、すでにそうし始めている。

自動車会社に投資するときには、その競合相手が世界各地で何をしているのか、十分に理解しておかなければならない。ある一人の掲げるビジョンを盲信し、競争に関わる要素を無視することは、筆者が自動車業界の動向を追ってきた過去四半世紀を振り返ってみても、うまくいった例がない。実際のところ、ヘンリー・フォード以外にそのような投資が成功した例はなかったと思われる。

フォードのようになる人物がいるとすれば、それはマスクではなくリーかもしれない。そうだとすれば、今後は何社かの非常に幸福な投資会社と、落胆するテスラの株主たちが現れることになるのだろう。

編集=木内涼子

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