ここでは2020年のアメリカ大統領選挙を見据え、米国の政治や教育、企業カルチャーにヒップ・ホップがどんな影響を与えているかを解説する。
オバマ政権にヒップ・ホップが与えた力
ヒップ・ホップが最初にポジティブな影響を政治に与えた事例としてあげられるのが、2008年にバラク・オバマが米大統領選に出馬した際の事だ。同年夏にオバマが民主党の大統領候補指名を獲得すると、多くのラッパーたちが黒人大統領誕生を期待するリリックを書き、オバマは出馬スピーチでジェイ・Zに対する敬意を表明した。
その翌年、ジェイ・Zはオバマの大統領就任式に合わせ「マイ・プレジデント・イズ・ブラック」という楽曲をリリースし「戦争はうんざりだ、白い嘘にもうんざりだ、今度の大統領はブラックだ」と歌った。
ニュース番組「The Beat」司会者のAri Melberは政治的な事件のレポートで、ドレイクやカニエ・ウェスト、ローリン・ヒルらの有名なリリックを頻繁にとりあげることで知られている。
大学の講義テーマとなるヒップ・ホップ
各地の大学でヒップ・ホップが講義のテーマとなるケースが増えている。ワシントンD.C.のジョージタウン大学では、社会学の研究トピックにジェイ・Zが選ばれた。ジョージア州のアームストロング大学では、ヒップ・ホップデュオのOutkast(アウトキャスト)の歌詞が上級英語クラスの講義テーマとなった。
また、プロデューサーの9th Wonderはデューク大学で大学講師を務めた後、現在はノースキャロライナ大学でヒップ・ホップの歴史と音楽ビジネスについて教えている。
さらに、ラッパーのバン・Bは、2011年にテキサスのライス大学の講師に就任し、宗教とヒップホップカルチャーを教えている。受講を希望する学生が殺到したため、大学側は急遽、定員を250名に増やして対応したという。
企業カルチャーとヒップ・ホップ
ヒップ・ホップがここまで市民権を得たにも関わらず、音楽業界のトップに黒人は少ないのが実状だ。米「ビルボード」は今年4月、「ヒップ・ホップブームはなぜ黒人重役を生み出していないのか?」と題した記事を掲載した。
今後の数年で、この状況に変化が訪れるはずだ。音楽業界に限らず様々な企業で、アフリカ系アメリカ人たちが重要なポジションに就くことになるだろう。
モータウン社長のEthiopia Habtemariamや、先日RCAレコードが提携をアナウンスしたレーベル「Keep Cool」社長のTunji Balogun、音楽プロデューサーのKevin Lilesなど、音楽業界では様々な黒人エグゼクティブが誕生している。この流れは他の分野にも拡大し、米国の企業カルチャーを変えていくはずだ。