「マルクスは、経済という下部構造が変わると、社会や文化などの上部構造を規定すると言いました。自ら変化をつくり出さないと、上に乗っかっている上部構造では振り回されてしまう。その考え方は、たぶん昔から変わらない」
いま起こそうとしている変化は、金融の情報産業化だ。例えばみずほ銀行の都心店舗には約30台のATMがあるところもあるが、数年前まではその前に列ができていた。しかし、いまでは列をつくることはほとんどなく、閑散とした光景も珍しくない。その様子を見て愕然とした。
「今日の勝者が明日の敗者になる時代です。みずほがルーザーにならないように、自らテクノロジーの世界に踏み込む必要がある」
実際、みずほFGはフィンテックの取り組みを強化している。例えば17年9月には日本初のAIスコア・レンディングサービス「J.Score」をスタート。スマホに表示される質問項目に回答していくと信用力がスコア化されて、借入を申し込んだ場合に想定される限度額や利率が提示される。
実はいま、このサービスに複数の企業から連携の引き合いが来ている。その理由のひとつは、高スコア層は消費行動が活発で、プロモーションのターゲットになりうるからだ。
「将来は、広告ビジネスを展開しているかもしれない。いずれにしても、10年後の金融はまったく違う世界が広がっているでしょう」
情報産業化の一方で、構造改革も進める。みずほFGは昨年11月、今後10年で1万9000人を削減することなどを発表した。
「構造改革案の道筋はつけたので、実行は若い経営陣に託します」
退任の理由をこのように語った佐藤。未来への種は撒いた。その種が芽を出すのを、4月からは会長の立場から見守っていく。
さとう・やすひろ◎1952年、東京都出身。76年、東京大学経済学部卒業後、日本興業銀行入行。みずほコーポレート銀行頭取、みずほ銀行頭取などを経て、2011年6月みずほフィナンシャルグループ社長・グループCEOに就任し、現在にいたる。