トリプルミッションが日本全体に活力を生み出す前述したように海外のエグゼクティブはどんなに忙しくても、若々しさを保つためにウエイトトレーニングを欠かさない。よいコンディションのなかで仕事をしたいとか、積極的に動ける体をつくりたいといったことを考えた場合、最終的に肉体を変えていこうという発想にたどり着く。ビジネスでのパフォーマンス、余暇の過ごし方に好影響を与えるからだ。そんな彼らから刺激を受けているのが、日本のエグゼクティブだと言えよう。
ビジネスのトレンドに敏感な会社経営者は、最先端をいく人のライフスタイルにも着目する。これがまず、日本のエグゼクティブの間でウエイトトレーニングが活発に行われる理由になったひとつだと神谷は考える。さらに、このトレーニングが心身へ及ぼす影響については、スポーツ生理学のみならず、自律神経の正常化、難病からのリハビリ、うつ病の克服など、医学界でも重要な研究テーマとして位置づけられるようになった。
筋生理学の可能性、ウエイトトレーニングの奥深さをより多くの人に感じてもらうために、現在、神谷は、『トリプルミッション』という使命を自分に課し、行動に移し始めている。日本社会に元気をもたらす取り組みになると信じているからだ。
「エグゼクティブだけでなく、ウエイトトレーニングを日本社会に普及させ、定着させるには、新たなプラットフォームをつくる必要があります。トリプルミッションとは、私自身が率先して遂行していかなければならない新たな価値の創造と言い換えてもいいでしょう。
一つ目のミッションは、トレーニング理論の正当性を実際に皆さんに理解していただくということ。ウエイトトレーニングによって、アスリートのパフォーマンスがどのように上がったか、そのデータを開示します。このデータを医療機関に還元していけば、筋生理学の研究を促進させることにもつながります。
二つ目のミッションは、スポーツチームの指導者を対象に正しい情報を伝えていくということ。トップアスリートをゲストに迎え、エビデンスに基づいたコーチングの重要性を啓蒙していきます。例えば、ウエイトトレーニングの前にストレッチを行えば、むしろ筋が切れやすくなり逆効果になるといった話をしています。エビデンスのない自己流の指導の危険性を、何十人という子どもたちを預かる指導者自身に理解してもらわなければなりません。トップアスリートが自身の経験を生の声で伝えれば、より真剣に話を聞いてもらえると考えたのです。
三つ目のミッションは私たち自身が大学の研究機関とコラボレーションして、子どもから高齢者まで、さらに運動・健康効果の期待できるトレーニング方法を共同開発していくというものです。年齢、性差によってホルモンの生成は変わってきます。エビデンスがあり、より個々に寄り添ったトレーニング方法が生まれたなら、それはどんどん採り入れていくべきなのです。大切なのは、この三つのミッションを同時に、連動させて遂行していくこと。ウエイトトレーニングを普及させるには、わかりやすさが何より重要になると思っています」
トリプルミッションが浸透していけば、欧米のように日本でもウエイトトレーニングが健康や幸福を実感できるアクティビティとして、どの世代にも定着するだろう。これこそが神谷がエグゼクティブにかけた魔法、マインドセットだと言えよう。トレーニングの後に、誰もが「今日もいい感じだな(FEEL BETTER!)」と当たり前のように表現できる日が来たとき、日本のフィットネス人口は大幅に増加しているのだろう。
神谷卓宏(かみや・たかひろ)◎1990年、群馬県生まれ。医療大学中退後、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程を修了。国際ライセンスであるアメリカスポーツ医学会運動生理学士を取得。2014年DL CHASE jAPANを設立し、HALEO TOP TEAMと日本初のトレーナー契約を締結。16年パーソナルトレーニングジム「ORKA GYM」を設立。