米著名冒険家の原動力 「喜び」と「喜び前」という考え方

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冒険家マイク・リベッキーは、「喜び」が持つ圧倒的な力を示す生きた手本だ。

彼はこれまで、55回以上の探検に成功し、複数の高峰で初登頂を成し遂げた。これまで訪れた地はアフガニスタン、南極、バフィン島、ガイアナ、グリーンランド、中国、マダガスカル、キルギス、ウズベキスタン、タジキスタン、パプアニューギニア、ロシア、ベネズエラ、イエメン、インドネシア、フィリピン、ポリネシア、アフリカ、離島の数々、さらには名もなき場所さえあり、この半分以上は単独での探検・登頂だ。

2013年には、南極のクイーンモードランドの山「バーサの塔」登頂という危険な挑戦に果敢にも挑み成功したことで、米科学誌ナショナルジオグラフィックの「今年の冒険家」に選ばれた。

私がマイクと出会ったのは今年のサンダンス映画祭、マイクの冒険の主要スポンサーである米IT大手デルの出展ブースだった。私が最も感銘を受けたのは、彼のシンプルで非常に前向きな考え方だ。「私の心理状態には2つある。『喜び』と『喜び前』だ」と彼は言った。

“喜び”は説明するまでもないだろう。一方で“喜び前”とは「刺されたら10分以内に死ぬ毒を持つクモザルが腕に乗っていることに気づいた瞬間」のことだという。この状態を切り抜けさえすれば、まだ生きていることに安堵(あんど)し、どのようにクモを腕から払いのけたのかを人々に語るという、素晴らしい瞬間を楽しめる。

長年の数学マニアであるマイクにとって、一つ一つの冒険は、答えを出すべき難解な数式のようなものだ。救助の手が届かない危険な場所に単独で向かうことが多いため、この数式には“変数”を用意しておかなければならない。例えば「気温がマイナス40度のシベリアでストーブを直すのに必要な道具」などだ。

多くの人は知らないが、どんなに勇気のある冒険家でも、挑戦の途中で疲れたり、ホームシックになったり、いら立ちを感じたり、困惑したりすることがある。問題は常に起きるもの。“喜び前”はマイクの忍耐力の秘訣(ひけつ)だ。

ただ、この2つの精神状態に当てはまらないときもある。それは、家族が病気やトラブルに見舞われたときだ。そうなると、立ち止まって正面から現実に向き合わなければならないとマイクは語る。

これが凡人の問題とは無縁のラッキーな男の話だと切り捨てられてはいけないので言っておくと、彼はユタ州リトルコットンウッド渓谷の入り口近くで14歳の娘リリアナと暮らしており、犬や猫、オウム、豚、鶏、ウサギを飼い、5年前から娘のサッカーチームの指導をしている。

昨年夏、マイクとリリアナは人道支援活動のためペルーを訪れた。パシュパの町にコンピューター室を設置することと登山が目的だった。マイクの哲学を受け継いだリリアナは、自分たちの冒険を「喜び(joy)」と「登山(mountaineering)」を掛け合わせた「joyineering」という言葉で表現している。

皆さんも人生をよりシンプルで満足できるものにし、心を「喜び」と「喜び前」のみに限定してみよう。

編集=遠藤宗生

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