アンドリュー・エン(41)はAIの分野で抜きん出た存在だ。ディープラーニングの大規模なアルゴリズムを開発した「グーグル・ブレイン」プロジェクトを率いたのち、ネット上で有名大学の授業を無料で受講できる「コーセラ」を創設。その後、彼が今年3月まで在籍した中国のバイドゥ(百度)は、AIのあらゆる分野で世界をリードする存在になった。
エンによると、医療から教育、交通、小売り、農業にいたるまで、AIの影響を受けない分野はほぼ考えられないという。ある会議で、「美容師ならAIに仕事を奪われることはない」と発言したところ、ロボット学の教授に「あなたの髪型ならロボットでも切れるはず」と返されたという。
企業がAIを自社に活かすために必要なのは、それを担当するリーダーを雇うことだとエンは話す。
「例えば、電気が発明された100年前、企業は専門家を雇い、電気をいかに自社に導入するかを検討させたのです。20年前には、CIO(最高情報責任者)がインターネットや情報処理を担当した。AIもそれらと同じくらい強力で複雑な技術なので、自社のビジネスについてもAIについても知り尽くしている人間が必要です」
AIなどの発展により、今後10〜20年で30〜50%の雇用が失われると予想されている。逆に考えれば、残りの雇用は少なくとも当面は守られるということだ。
「問題は、仕事がなくなることではなく、人間を必要とする仕事の種類が変化しつつあることなのです」とエンは言う。
だからこそ、必要なスキルをいつでも身につけられるよう、生涯学習を奨励する社会を築く必要があるー。そう考えているからこそエンはコーセラに熱心なわけだ。
これまでさまざまな企業で働いてきたエンだが、共通するのは「働く意欲」だと話す。とりわけ中国では、皆よく働くという。
「中国では、日曜の会議でもみんな集まりますし、誰も文句を言いません。シリコンバレーではほぼありえないことです」
そのおかげで、中国では意思決定のスピードが圧倒的に速いとエンは話す。
「勤勉さの重要性について語ると、あまり喜ばれず、ワーク・ライフ・バランスを主張するほうが政治的に正しいとされます。消耗してしまうのも、家族との時間がとれないのも望ましくないけれど、現実的に言って、一生懸命に働かなければ偉大なことを成し遂げられるはずなどありません」