—今から13年後の2030年、ヘルスケア業界にはどのような変化が起きているでしょうか。
過去5年でヘルスケア分野には大きな技術変革があった。電子カルテが普及し、患者がスマートフォンを使って自分の病状について調べられるようになった。これらのテクノロジーがより広範囲に普及するだろう。
例えば、喉の痛みや咳、子どものおむつかぶれなど、比較的単純な症状は、医師に会わずに治療できるようになるかもしれない。ウェブサイトやモバイル機器などを使って症状を入力すると、コンピューターが治療法を提示してくれて、薬局で薬を買えば済む、といった具合だ。
また、慢性疾患の患者のケアも変わる。糖尿病や心臓疾患、高血圧の患者など、常時モニタリングが必要な人々に対し、ヘルステック企業が浴室や寝室などにモニター機器を設置し、そのデータを集めて監視するサービスを始めようとしている。高齢者や慢性疾患患者のケアの需要は増えており、今後広がっていくだろう。
さらに、AIやロボティックスなどのテクノロジーによって、医師や医療従事者をサポートする事例も増えるだろう。すでに放射線医学では画像診断の補助システムが発達し、人間よりも正確な診断を下すこともある。精神医学ではCogitoという会社が音声分析を使ってうつや自殺願望を持っている人を特定できる技術を開発した。
労働力の問題も大きい。知能ロボットはすでに産業界や軍事分野で実用化されている。近いうちに医療業界にも広がるだろう。医療は、モノや人を動かす労力が必要だ。これらの単純作業はロボットができる。人が高齢者を持ち上げて服を着替えさせる、といったことは10年後には一般的ではなくなるだろう。
これまで、世界中で画期的な医学的進歩が起きてきたが、慢性疾患の患者のケア、特異な症状の患者の診断、精神疾患や行動異常のある患者の診療といった分野は大きな進歩が見られない。高齢者のケアも上手くいっているとは言い難く、介護分野への統合も十分ではない。問題は山積みで、解決すべき課題は多い。
−Health2.0の近況を教えてください。
Health2.0は今年4月に世界最大のヘルスITの組織、HIMSSに買収された。現在、Health2.0の参加企業は4500社、製品数は6000。それらの企業に対するベンチャーキャピタルからの投資総額は、2010年の10億ドルから昨年は約45億〜50億ドルに跳ね上がった。
12月に日本で開催されるHealth2.0には著名なスピーカーが多数訪れ、政府や大企業、起業家、技術者、患者、医療従事者、様々なプレーヤーが一堂に会して最先端の技術で何ができるか、可能性を探っていく。起業家文化を広めて、ヘルステック分野のスタートアップを推進し、日本のヘルスケアのレベルを上げる重要な機会になるはずだ。
マシュー・ホルト◎Health2.0の共同創設者。20年以上ヘルスケアとITの分野に従事し、2003年に始めたヘルスケアのブログをきっかけに2007年にHealth2.0を立ち上げた。