東大発ベンチャーの先駆けの両氏はいかにして起業をし、成功しているのだろうか。
起業を選択肢にすると、可能性が高まる
漆原茂(以下、漆原):僕は出雲さんに会う前に、御社の取締役で研究開発の鈴木健吾さんに会いました。彼からミドリムシの研究をしていると聞いたことが、出雲さんに会うきっかけになった。「ミドリムシって、すごくイケてる!ヤバイ!」と思ったんです(笑)。 感動したので、よく覚えています。
出雲充(以下、出雲):肯定から入ってくれる人はごく少数なので、そう言って頂けると嬉しいですね。だって……ミドリムシじゃないですか(笑)。
今でこそ「東大発ベンチャー」という言葉を聞きますが、10年前は、東大生とベンチャーは最も離れていて、ベンチャーを立ち上げるのは最も落ちこぼれの人という感じでした。そんな頃、漆原さんが学生に「ベンチャー」を啓蒙するために個人的にやっていた座談会に参加させて頂きました。どうしてそのような活動をされていたのですか?
漆原:ベンチャーの魅力を伝えるというのはもちろんあります。学生の皆さんの発想は面白い。着眼点が新しいですよね。そうした可能性を広げたいと思うのが大前提としてあります。ただ、世代を超えた交流は私にとっても実は重要なんですよ。若い人のエキスを吸うと、こちらが若返るんです(笑)。
出雲:現在、上場企業として順風満帆に見えるウルシステムズですが、漆原さんにも大変な時期があったと伺いました。それにもかかわらず「起業は楽しいよ。君も選択肢を広げたら?」と、キリスト教が広がる前の布教活動をしているかのごとくやられていた。東大の後輩のためになぜ損得抜きでやってくださるのかわからなかったので、今、「若い人のエキスを吸える」と聞いて救われた気がします。
好きなことで起業すれば「大変でも楽しい」
漆原:若い人たちが日本、そして世界の未来を担っているじゃないですか。だから、自分が好きに楽しくやっている姿を見せることで、若者の可能性が少しでも広がるのであればと思っています。
確かに紆余曲折もあるけれど、起業はやっぱり楽しいです。その楽しさを他の人に広げたいと思っています。私は大企業にいたのでその良さも理解していますが、起業して、自分たちの責任と権限で苦労しながら成長していく醍醐味はなにものにも代えがたい。活躍している仲間からもらうプラスのエネルギーは、僕にとって生きる活力になっています。
出雲さんこそ、最初は大変だったでしょう? ミドリムシは理解されないでしょうから。
出雲:はい。会社を作って3年目の頃、自宅は9平米で、部屋にはベッドと机があり、机の下に冷蔵庫があるぐらいで、役員報酬は月に10万円でした。それが大変といえば大変だった時かな。でも、ミドリムシをやっている時は、時間を忘れますね。研究者であればきっと同じだと思いますが、好きなことをやっているときは、あっという間に時間が経つ。
漆原:僕もコードを書いていると時間を忘れて徹夜しちゃう。好きなことと仕事が同じです。外からみると大変でも、自分たちは楽しいんですよね。