2016年に中国国内で販売された自動車およそ2800万台のうち、輸入車はわずか4%を占めたにすぎない。使節団は中国側に対し、市場を開放しなければ米国の自動車メーカーが中国で直面するのと同様の規則を、米市場に進出している中国のメーカーにも課すと伝えているだろう。それが、古き良き時代の「互恵関係」だ。
自動車業界での長い経験を持つ交渉団の顧問は、中国に自動車市場の開放を迫るためには、毅然とした態度で交渉に臨む必要があるとの考えを示している。アジアの自動車市場を専門とする投資顧問会社、ダン・オートモーティブの創業者である筆者は2011年、自著の中でもこの顧問の見解を紹介した。以下はその抜粋だ。
──世界の自動車産業の中心は、すでにアジアにシフトしている。さらにその中枢にあるのが中国だ。欧米の各国をはるかに上回る数の自動車が、アジア各国で生産され、販売されている。アジアは向こう20年間にわたって、市場を主導し続けるだろう。
中国は強い。非常に強い。だが、それでも無敵ではない。中国にも深刻な問題がある。戦略的な取り組みとして労働集約型の生産を行い、製品を輸出してきたが、それも永遠に持続可能ではない。また、中国企業は国内では、外国企業より有利な立場を享受している。だが、それは彼らに有利になるように規則がゆがめられているからだ。
中国の自動車メーカーが米国内での販売を開始すれば、米国の消費者へのアクセスを確保する必要性が生じる。米国が中国に対して影響力を行使できるのは、この点においてだ。
中国は外国の自動車メーカーに規則を課すことによって、国内メーカーの競争力を高めている。米国は自らの努力次第で実現できることを増やすために、中国と同じことをしなければならない。つまり、米国内で新たに、次の規制を導入するのだ。
1. 米国市場に進出する中国の自動車メーカーは、米国内での工場建設に投資を行わなければならない。
2. 中国メーカーが単独で米国内に工場を建設することを認める。ただし、米国の自動車メーカーが中国で同様の権利を与えられることを条件とする。
中国がこれを拒否するのであれば、米国も同じ態度で応じる。米国市場に進出したい中国の自動車メーカーは、工場を設置する都市や州政府と合弁企業を設立しなければならない。
3. 米国内での事業活動によって得た利益は、米国内にとどめることとする。中国に送金する場合には米政府から特別に許可を得ることを義務付け、金額にも一定の限度を設ける。
最終手段は「脅し」?
「トランプ・アンド・カンパニー」にとって、中国に市場の開放を認めさせることは難しい問題だ。いまや多数の製品・サービスの世界最大の市場になった中国は、外部からの忠告にあまり耳を傾けなくなっている。
米国ではすでに、何万台もの中国製のボルボ「S60」やビュイック「エンビジョン」、キャデラック「CT6」が道路を走行している。2019年には、フォードの次世代コンパクトカー「フォーカス」が中国で生産され、米国に輸出されるようになる。
米国の消費者や米国のテクノロジーに対する中国の自由なアクセスを阻止すると脅すことは、中国との貿易交渉において米国が持つ最後の対抗手段だ。米国は中国に市場を開放させるため、同国に対しては当面、自らの市場を閉ざす必要があるかもしれない。