米シリコンバレーを拠点とする「ホンダイノベーションズ」。2017年4月に米国法人として独立したこの組織は、それ以前からホンダ・シリコンバレー・ラボ(HSVL)として活動してきた。ここを基点に本田技研工業(ホンダ)は、ドライバー向けスマホアプリのDrivemode、喉周辺の振動から音声情報を認識するVocalZoom、ドライバー用3DディスプレーのLEIAなど、様々なベンチャー企業との協業を生んだ。
「シリコンバレーにはホンダの原点がある」
同社は11年以降、社内向けのテクノロジーショーケースを年数回開催してきた。現地を訪れたホンダの役員・幹部らは、展示されている試作機を見て、ベンチャー企業CEOや大手テック企業との議論を重ねる。そして、帰国の途に着く頃、口を揃えてそのように語ったという。杉本直樹CEOは、ホンダ創業者の本田宗一郎が残した「成功は99%の失敗に支えられた1%だ」という言葉がベンチャー企業の姿と重なるのではないか、と話す。
「実際に動く試作機を手にしながら、『お客様に届けたい』という感覚を共有し、製品化に向けて検討を進める。この体験が、ホンダのかつてのベンチャー企業としてのDNAを刺激する。オープンイノベーションは、凄いイノベーションを起こすという“新しい動き”と捉えられがちですが、ホンダの場合は創業の精神への“立ち返り”ともいえます」
杉本が最大の成果と評するのが、グーグルの「Android Auto」、アップルの「CarPlay」との協業だ。スマートフォンと自動車をつなげて、車内ディスプレーにスマホのコンテンツを表示。ハンドルのボタンや音声認識を活用し、メッセージや予定の読み上げ、ナビゲーションなどをスマホに触れずに行える。
この協業は12年末、ホンダが作った試作機を、グーグル、アップルへ提案するところから始まった。スマホを車の中で安全に使ってもらえたら交通事故が減少する──、思いはすぐに共有されコラボレーションが始まり、15年に北米で発売された人気シリーズ「ACCORD」に搭載。世界初の同システム搭載の量産車となった。「12年時点でまだコンセプトしかない技術が、3年後に発売される車へ搭載されることは、本来はありえません(笑)」
なぜ、それが実現できたのか。そこには杉本が大事にしている「トランスペアレント(透明)」を心がける姿勢にあった。お客様目線での価値について、経営層をはじめ社内に向けてその実現可能性も含めて、正直にそして真摯に伝えて回った。その思いが届き、社外ならびに社内各部署の全面的な協力を得ることができ、他社よりも速く実現までこぎつけたという。