自分を縛り付ける幼少期からの思い込みを捨てるには

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ある日、ビルは私のセラピー室に入ってくるなり、こう言った。「僕はリーダーには向いていないんです」

ビルは昇進のオファーを受けたが、辞退しようとしていた。上司からの信頼は見当違いだと、かたくなに思っていたのだ。

しかし、ビルが良いリーダーになれる証拠はたくさんあった。周囲から自然に助言を求められる存在で、危機的な状況でも落ち着きを保て、仕事に対する情熱もあった。

上司だけでなく妻も、リーダー職に応募すべきだとよく言っていた。ビルにはチームを率いる高い潜在能力があると考えていたからだ。しかしビルは、自分がリーダーとなる姿を想像できなかった。

彼は幼い頃から恥ずかしがりやで、教室の後ろで目立たないようにしていることを好んだ。また、先生がビルの両親に「ビルはリーダーというよりは、人についていくタイプです」と話すのを耳にしたこともあった。

25年後のビルは、自分は「人についていく側」の人生を歩むものだと確信していた。本当は人を率いる側になりたいにも関わらず、自分には優れたリーダーとしての才能が生まれつき欠けていると信じていた。

ビルと同様、私たちは皆、自分自身の力に対し、幼い頃に育んだ思い込みに縛られている。そしてしばしば、自分の能力を信じられず、本来達成できるはずの成功に対し、自らを阻んでしまう。

一度持った信念は、間違っていても捨てられない

自分があまり賢くない、とか、人付き合いが苦手だ、などと決め込んでしまうと、その信念はずっと自分についてまわる。これを心理学では「信念固執」の原理と呼ぶ。

政治的信念であれ自分自身に対してであれ、一旦何かを信じ込むと、それが間違っていることを示す証拠があっても受け入れられない。例えば、自分は頭が悪いと信じている人は、試験で高得点を取っても、運が良かったとか、まぐれだとしか思わないことがある。

更に、中核的な信念を育て上げてしまうと、その信念を強化するような証拠にばかり注目するようになる。自分はばかだと思っている人が、9つの試験に合格して1つに落ちた場合、「9つも合格できて自分は賢い」と思うのではなく、「不合格の試験が1つあるなんて、やはり自分は頭が悪いのだ」と考えてしまう。

自分に対する思い込みばかりではなく、他人に対しても同様だ。何かを信じ始める時よりも、その信念を変える時の方がより説得力のある証拠が必要になるという事実は、数十年にわたり繰り返し実証されてきた。
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編集=遠藤宗生

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