訪問時に行われていた「タリン建築ビエンナーレ」の会場に、旧市街を除くタリンの街の模型をみつけた。およそ10階に満たない建物が多く、高層ビルは数えられるほどしか建っていない。
新市街の俯瞰模型。全体的に10階以下程度の建物が多い。
「絵本」と「テクノロジー」の間で、生活圏の街並みはそのどちらでもない発展のペースと方向性を示していた。
合理的で創造的な国民性
現地在住の日本人女性によれば「エストニア人は、余計なハコを造らない合理的な考え方の国民性」を持っているという。
私がエストニアを訪れる直前の2017年8月末、タリン港の建築基本計画コンペティションにてザハ・ハディド・アーキテクツが選ばれた。現在のタリン港は、小さな島に来たかのような飾り気のない港である。国家のITシステムが世界でトップクラスの先進性を誇りながら、諸外国と繋がる海の玄関の完成予定は2030年、13年後となる。
街を歩くと、独特な構造の建物に目を奪われた。エストニアのKOKO Architectsというチームが手がけたこれらの特徴は、古い建物の上に新しいハードを乗せる、という大胆なものだ。このリノベーションの仕方からも、エストニア人の合理的かつ創造的な国民性がわかる。
画像引用:KOKO Architects
ソフト起点の考え方
低いモダン建築のすぐ裏に、歩きにくい土煙りのたつ未舗装の道路。市民の生活するタリンを歩いていると、複数の時代を行き来しているかのよう。東京から訪れた私には、その差が強く感じられる。
当然のことながら、エストニアの先進的な仕組みはインターネット上に機能し、目に見えない。近未来的な機械が街中に並ぶわけではないのだ。役所や病院で待たされない、パーキングでの精算の必要がない、というところにその恩恵が表れる。
駐車場料金はSIMにひも付き、自動で引き落とし。Autlo社開発のサービス。
歴史や経済的な背景から始まった、小リソースで効率の良い国力強化の戦略。ここには、ハードとソフトに対する現代的な考え方の根付きを感じる。役所は遠い。冬は寒い……そんな中わざわざ外出するくらいなら、高齢者でもエストニアの仕組みを学んで使いこなす、という。
そんなエストニアから、いち生産者として学ぶことは多い。しかしそれだけでなく生活者としても、目に見えないものを信じない思考はこれからの時代において豊かな生活の足かせになるかもしれないと学べる。
これからの革新、高い信用、良質な生活は、「目新しさがない」という言葉の裏側につくられるのだ。
病院の支払いに並ぶ患者のため暖房機を設置する、役所に行きやすくするために橋をかける。お金を貯めるため大きな財布を買う……。その投資の仕方は工夫の余地がないだろうか。目的を達成するための持続可能な仕組みだろうか。
日本との違いから多くの学びとアイデアを得たエストニア滞在。でも実は、インターネット上をリアルの世界と同じ重さに捉え、物質の所有に固執しない世代と言われる25歳の私には、彼らの思考は新鮮というよりも共感できるナチュラルなものだった。
個人的おすすめスポットのクム美術館。旧ソ連占領時代のエストニアアートなどから、辿った歴史を感じられる。