音大を卒業する女性は多いにもかかわらず、楽団員はほぼ男性。その状況に問題意識を持った楽団が試したことはブラインド・オーディションだった。
オーディションを行う前、演奏者と審査委員の間にスクリーンを置き、ジェンダーをわからなくしたのだ。演奏者が見えなければ、審査員は音だけで評価することになる。そもそも演奏家が評価されるべきことは音だけなので、このやり方はベストな演奏者を見極める手法として理に叶っている。
その結果、男女の合格率はどうなっただろうか。
1. 今までと同じ
2. 男性の合格率が高くなった
3. 女性の合格率が高くなった
答えは3。女性の合格率がなんと50%も上がったのだ。1970年に5%だった米国オーケストラの女性比率はその後確実に増え続け、現在40%となっている。
この衝撃的な調査結果は世界でも語り継がれており、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)への関心を大きく高める要因ともなった。ブラインド・オーディションが、偏見を目に見えるものとしたからだ。
偏見(バイアス)は私たちの能力の見方に影響を与えている。男性の能力は男性というだけで実際より高く見え、女性の能力は実際よりも低く見えるように働くため、男性を有利にする分、女性を不利にするのだ。
つまり、バイアスによって男性は過大評価され、女性は過小評価されるため、男女が同じ能力だと、男性が合格し、女性が不合格になる。そして男性と同等の評価を得るためには、女性は男性よりもはるかに高いパフォーマンスを求められるため、スーパーウーマンでないと受からないのだ。
ブラインド・オーディションで演奏者のジェンダーをわからなくすると、バイアスの影響が削除され、本来の能力のみで評価されるため、女性の合格者が大きく増えたのだ。
ここで証明されたのは、「ゲタをはいていたのは男性だった」ということである。
ダイバーシティ推進は、一般的に女性にゲタをはかせると思われがちだが、そうではなく、今まではかせていた男性のゲタを外し、能力だけで評価することを求めているのだ。
もうひとつ認識すべきは、スーパーウーマンはどんなに高い評価基準でも満たすことができるため、バイアスの影響を受けない。つまりバイアスは“フツウの女性”に影響を与えているという点だ。
さらに日本の場合、無意識だけでなく、意識のバイアスも根強いので、より意識的に取り組むことが必要だ。
さて、ブラインド・オーディションは現在、欧米での主流オーケストラの標準的な採用方法となり、その結果、それまで「白人男性」でほとんど占められていた楽団に、女性だけでなく、さまざまな人種や国籍の演奏者が増えている。
組織でのダイバーシティの基本は、仕事に関係のない属性は考慮せず、成果で評価することだ。能力主義が進めば、必然的にダイバーシティが進む、ということを楽団の採用方法の変革が明確に示してくれたことは心から喜ばしい。
組織ではスクリーンをして面接を行うことはできないが、このやり方はビジネス社会でも大きく参考となり、欧米の組織では、今までとは異なる採用法が試行されるようになってきている。
日本の政府が提唱する一億総活躍へ前進するには、フツウの男性がマネジメントになれるのと同様に、フツウの女性もマネジメントになれる社会を構築することが不可欠だ。日本でも多くの組織が無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)への関心を高め、しっかりと取り組んでいって欲しい。