IBMは莫大な費用を同社のAIのワトソンに注いでいるが、目立った成果をあげられていない。健康情報メディア「Stat」は先日、ワトソンのガン治療分野への導入が遅延している状況を詳細にレポートした。
IBMは大学の研究機関とともに、この状況への対処を始めた。9月7日、IBMはマサチューセッツ工科大学(MIT)と実施するAI研究プロジェクトに、今後10年間で2億4000万ドル(約260億円)を出資するとアナウンスした。「MIT-IBM Watson AI Lab」と呼ばれるこのプロジェクトは、100名の研究者らを4つのAI領域の研究に割り当てる。
その4領域とはニューアルゴリズム、ハードウェア、ソーシャルインパクト、ビジネス活用だ。アルゴリズム開発において同プロジェクトは、マシンラーニング(機械学習)の一分野であるディープラーニング(深層学習)に続く新領域に注力する。
「今回の提携で、ディープラーニングを超える新たなアルゴリズムの発見に向けた基礎研究を開始する」とMITのエンジニアリング部門学部長のAnantha P. Chandrakasanは述べた。
研究チームが特に注力するのは、人間による監視や手作業によるデータのタグづけ無しで実行可能なAIアルゴリズムのトレーニングだ。現状のディープラーニングのトレーニングには、人間の目視による確認が必須で、個々のデータにラベルづけを行う必要がある。例えば車の画像データがあれば、これは車だと教えてやる必要があるのだ。
ハードウェア領域ではエヌビディアのGPUに代表される、AI向けチップを超える製品を生み出すことを目指す。IBMはこの分野で量子コンピューティング(quantum computing)のような、従来のチップ設計に依存しないプロセッサのテストを重ねているが、その試みをさらに前進させる。
アナリストは「IBMの敗北」を予測
IBMのAIリサーチ部門バイスプレジデントは「従来のシリコントランジスタを超える新素材や、新たなデバイスの開発に取り組んでいく」とインタビューで述べた。新プロジェクトの研究成果はワトソンにも導入される可能性もあるが、Chandrakasanらは新たなスタートアップ企業にも参加を呼びかけていくという。
IBMは今、全社をあげてクラウドやAI部門の建て直しに取り掛かっている。ワトソンには巨額の投資を行ったものの、IBMは21四半期連続の減収という厳しい事態に直面している。今年7月発表の第2四半期決算でIBMは、Cognitive Solutions部門の売上が前年度比2.5%マイナスの46億ドルになったと発表した。
競争が激化するAI分野で、今回のMITとの取り組みがどれほどの成果を収めるかの予測は難しい。グーグルやフェイスブック、マイクロソフトやアマゾンもAI部門に莫大な投資を行っている。
ジェフリーズ証券のアナリスト、James Kisnerは先日「IBMはAI分野の競争で敗退した」との見解を示した。
経済メディア「バロンズ」はKisnerの次のような発言を記事内に引用した。「人工知能領域では人材の不足が大きな課題だ。我が社のアナリストらの見立てでは、IBMがAI人材の獲得戦線で勝利を収める見込みは少ない」