米国で魚から「抗うつ薬」の成分を検出、人間への影響は

Photo by Joe Raedle / gettyimages

魚が抗うつ薬の処方を受けることなどあり得ない。だが、五大湖のエリー湖からオンタリオ湖へ流れるナイアガラ川で釣り上げられた魚の脳などに、抗うつ薬の成分とそれらの代謝物が高濃度で含まれていたことが分かった。

学術誌「エンバイロメンタル・サイエンス・アンド・テクノロジー」に8月16日に発表された研究結果によると、魚は文字通り、ゾロフト(Zoloft)やプロザック(Prozac)、セレクサ(Celexa)、サラフェム(Sarafem)といった多数の抗うつ薬が溶け込んだ水の中を泳いでいると見られる。

共同で調査を行ったタイのラムカムヘン大学とコンケン大学、ニューヨーク州立大学バッファロー校の研究者らによれば、確認されたのは抗うつ薬のほか、その代謝物(ノルフルオキセチン、ノルセルトラリン)や抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン)など。これらは魚の脳だけでなく、肝臓や筋肉、生殖腺の中にも含まれていた。

また、抗うつ薬の成分が確認されたのは、スモールマウスバス、ラージマウスバス、ラッド、ロックバス、ホワイトパーチ、イエローパーチ、ウォールアイ、スチールヘッド(ニジマス)など、大きさも種類もさまざまな魚だった。

人間の尿で「エビが自殺」?

これらの薬は、どのようにして川に入り込んだのだろうか。それは、水洗トイレから流される汚水が原因だ。抗うつ薬を服用している人の尿の中には、薬の成分が残る。トイレからの排水は汚水処理施設に送られ、必要な処理が行われた後で川に放出されるが、多くの施設は薬の成分が除去されたか確認するための検査をしていない。あるいは、除去するための処置を行っていない。

排水はそうした状態で、魚が生息する河川に放出されている。そして、そうなれば魚には何がきるのか、明らかにするのは難しい。ただ、ジャーナル「アクアティック・トキシコロジー」に2010年に発表された研究結果によれば、ヨコエビの一種には、水中に溶けた抗うつ薬の影響で「自殺行動」を取るようになったものがある。

エビは通常、(捕食者がいるかもしれない)光の照っているところからは離れようとするものだが、影響を受けたエビは反対に、光に向かって泳いでいくようになったという──気が滅入るような話だと思われるだろうか。

排水を通じて川の水に入り込んだ抗うつ薬の濃度は、今のところ私たちに影響を及ぼすほどではないかもしれない。だが、米科学雑誌「サイエンティフィック・アメリカン」に昨年掲載された記事によると、抗うつ薬の処方を受けている米国の成人の割合は、12%に上る(米医学誌「「JAMAインターナル・メディシン」に発表された調査結果による)。さらに、米疾病対策センター(CDC)によれば、抗うつ薬の使用量は過去数十年間で大幅に増加している。

環境中のこれら薬品の成分の濃度はいずれ、あらゆるものに影響を及ぼし始めるのだろうか? 廃水処理場や環境保護局が調査を開始しない限り、その点を明らかにすることは困難だろう。

エビが自殺し始める中で、スチールヘッド(ニジマス)が何をしているかは誰にも分からない。生態系をぞんざいに扱うことは、私たちが自宅の周辺にごみや排せつ物をまき散らしているようなものかもしれない。私たちのそうした行動は、最終的には自分たちに跳ね返ってくる可能性がある。

編集=木内涼子

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