その一方で、「贅沢にはまったく興味がありません」と言い、歯ブラシは「出張先のホテルから持ち帰り」、ティッシュペーパーは「銀行が配っているものを使う」と公言する永守が、17年3月、京都学園大学の工学部新設構想のため、個人として100億円以上の寄付を発表した。18年春には同大学の理事長に就任予定だ。
永守は記者会見で、「税金はどう使われるかわからないが、寄付なら使い道がはっきりする」と全財産を使う構想まで話した。
14年に私財を投じて「永守財団」を設立し、モーターの研究者を支援する「永守賞」を創設。また、同年、京都府立医科大学にがん治療のための陽子線治療施設の新設などに、70億円の寄付を行っている。なぜ大胆にも巨額な私財を寄付するのかと問うと、壮大な構想と、彼なりの哲学と思考法について語り始めた。
—今年に入り、日本電産として京都大学に2億円超の寄附講座の開設、そして京都学園大学には100億円以上の私財を寄付すると発表しました。こうした行動の理由は?
永守:自分が描いている大きな構想にすべてつながっていることですが、まず前提にあるのは10年先20年先に起きるリスクです。私は長期的に将来どういうリスクが起きるかを常に考えて会社経営をしてきました。日本電産はモーターで世界トップメーカーになり、今後もEV(電気自動車)、ドローン、ロボットなど、ますます生活の中にモーターが増えてきます。にもかかわらず、モーターの研究者は世界的に激減しています。
理由は、理工学部に進学する若者が人工知能(AI)やソフトウェアなど華々しいところに進むようになったからです。学生たちは、モーターがEV、ドローン、ロボットなど未来の産業をつくるものだとは思っていません。教育はタイムラグがあるため、モーターのように一度人気が落ちたら、教える先生も減り、すぐに復活はできないのです。
日本電産では17年、新卒を約350人採用しましたが、20年には1000人を採用する必要があります。今年採用した者のうち8割は技術系ですが、モーターの研究者はほぼゼロ。社内で半年から1年かけて基本を教えてから現場に回しています。これは大変なことなんです。
—発端は危機感にある、と。
永守:そうです。永守財団をつくったのも、モーターの研究者を顕彰しなければと思ったからです。まずは「永守賞」を創設し、次に、助教や准教授が一番困っているのが研究費だとわかり、助成金を出すことにしました。
そして、今度は「2018年問題」。18歳人口が18年から減少し始め、大学経営は成り立たなくなり、大卒者も激減するといいます。自ら世界に通用する工科大学をつくろうと思いましたが、新設大学の認可は極めて難しい。そんな折、京都学園大学の理事長が私のところに話を持ち込んでこられました。それで20年に京都学園大学に工学部および大学院工学研究科を新設する構想を進めることになったのです。
第2回(2016年)「永守賞」受賞者たちと永守理事長。
私が「東大と京大を抜く大学をつくる」と言うと、新聞記者は「そんなこと、できるんですか?」と言いますが、なにも東大や京大のような総合大学をつくるわけではありません。一つの尖がった世界で通用する大学をつくる。簿記、バランスシート、英語、生産技術。そういったことがわかる即戦力の実務家を輩出したい。
「それは職業訓練大学じゃないですか」と言われるけれど、私は「そうだ」と答えています。新聞記者は「それはわかりましたが、大学をつくるのはそう簡単じゃない」と言います。では、1973年に私が自宅の納屋で創業した会社が、世界一のモーター会社になったことをどう説明するんだと問うのです。
京都学園大学は2020年に工学部および大学院工学研究科を開設する。
—10年先20年先のリスクを常に考えているという点について、具体的に教えてください。
永守:84年からモーターの会社を中心に企業買収を続けてきました。なぜ買収するかというと、将来的にはモーターの需要が爆発的に増えてモーターが不足し、枯渇すると思うからです。モーター単体だけではなく、モジュール化に必要な関連企業も買収してきました。一方で、売却する方は経営的な問題があったり、「もうモーターは先細りになる」と思い込んだりしている。考え方が私と逆なのです。
私が中学2年のときに亡くなった父親は、死ぬ前にこう言っていました。「これからは電気の時代だ。中学を出たら、電気店で修業して手に職をつけるんだ」と。でも、28歳で起業するとき、モーターの会社をつくると大学の恩師に報告したら、「永守くん、モーターはダメだ。競争が激しいぞ」と諭されました。