ビジネス

2017.06.06

「地域発クラウドファンディング」の意外な効果

島根県石見銀山のふもとにある、 築270年の古民家。その茅葺き屋根の修繕のためにCFを活用したのは、 35年連れ添った松場夫妻だった。復古創新を掲げ、古民家を拠点に田舎らしい美しさを追求した生活を営む。 このCFを支援することは、同時に2人の織りなすドラマを垣間見ることにもなったのであった。

都市から離れた場所だからこそ、ほんの小さなアイデアが訪れる人に大きな感動を与える。人を巻き込むプロジェクトの条件とは何か。Readyfor代表・米良はるかに聞いた。


自治体の地域PR動画。ユニークなアイデアが光るものは、話題を呼び、メディア上でちょっとした流行になる。しかし、そうした地域PRで、実際にどれだけの人が地域を訪れるのか。予算に見合うPR効果があるのかは、定かではない。
 
一方、地域発のクラウドファンディング(以下、CF)は、資金集めばかりに注目が集まるが、本当の肝はそこではない。むしろ資金を集めた後に、意外な仕掛けがある。人生の一部に地域そのものを組み入れてしまうのだ。
 
例えば、CFのリターン(返礼品)の積み木で、沖縄の小さな村にたくさんの人を惹き寄せたプロジェクトがある。

国頭村の「やんばる森のおもちゃ美術館」のCFだ。リターンは、合体させられる2つの積み木。支援者にはヤンバルクイナ型の積み木が届き、館内の壁一面には、支援者の名前入りの積み木が飾られる。一見些細なこの仕掛けが大人気に。小さな積み木1つが、親たちにとっては、子供を連れて国頭村を訪れる大きな理由になったのだ。

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対になった積み木をもらえる支援者は、通称「一口館長」。そうした呼び方ひとつにまで、工夫を凝らすプロジェクト実行者。そこには「なんとか、地域外から人を巻き込もう」という、強い気持ちがうかがえる。
 
地域のファンづくりは、ほんの小さな仕掛けでできる。ゲストハウスのCFで、リターンに建設予定地を見に行くツアーを組み込む。訪れる場所は、ただの空き地。ここで、支援者をこれから始まるドラマの目撃者にしてしまうのだ。

「誰かの奮闘で、変化が起こる。その過程の追体験こそが、CFの面白さです」
 
Readyfor代表の米良はるかの言葉通り、地域のドラマを目の当たりにすると、人は地域のファンになっていく。ついには移住する人まで現れる。つまり、傍観者からドラマの舞台に上がる役者になり、人生を大きく変えてしまうのだ。
 
近年、新たに登場した「ガバメントCF」。自治体主導のCFに、ふるさと納税の要領で寄付ができるのだ。

「プロジェクト形式ならば、税金で実際に地域が変わる過程が見られます。この追体験が納税者と地域を繋ぐ、大きな一歩になる。そう信じています」

「Readyforふるさと納税」の第一弾は、広島県内の里山にある3つの廃校をリノベーションする、県主導のプロジェクトだ。目的は、学校を地域のコミュニティスペースとして甦らすこと。希望する学校の下駄箱に、自分の名前を入れられるリターンが人気だ。廃校となった学校の卒業生、旅が趣味の大学生。誰もが、いつか訪れる時のちょっとした楽しみとして、リターンを受け取っている。なかには、まだ幼い息子の名前を登録する母親も。こうして、CFのドラマは、世代を超える。

文=フォーブスジャパン編集部

この記事は 「Forbes JAPAN No.35 2017年6月号(2017/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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