その先富論ならぬ、“先革論”を象徴するのが、寂れた漁村から40年足らずの間に中国を代表するイノベーション都市となった深センだ。深センは現在、世界展開する企業を複数輩出しており、新興創業都市としての地位を築いている。日本の経済誌やTV番組などでも、その発展ぶりはたびたび注目されるようになって久しい。
ただ中国の創業環境を総合的に示した「創業イノベーション指数」によると、トップは未だ北京。深センがその背中を追う形となっている。ともに「中国のシリコンバレー」の異名を持つ北京と深センだが、ここでは中国の新旧創業都市の特徴について改めて見ていきたい。
北京に拠点を構える代表的な企業としては、インターネット検索の百度(バイドゥ)、スマートフォンのウェブ直販モデルで急成長した小米(シャオミ)、ECサービス大手のJD.com、ライドシェアリングサービスのDiDi(ディーディー)などが挙げられる。
一方、深センのそれはスマートフォンが日本でも知られるファーウェイやZTE、バッテリーメーカーを親会社に持ち電気自動車製造も行う自動車メーカー・BYD、世界最大手のドローンメーカー・DJI、アカウント数約7億人を抱えるメッセージサービス・Wechatを展開するテンセントなどがある。ここから見えてくるのは、北京はインターネット志向、深センはハードウェア志向であるということだ。
2016年時点で、中国IT企業時価総額トップ10社のうち4社が北京に本部を置き、深センにはテンセントの1社のみ。さらに政府機関の発表によると、北京に拠点を構える中国ネットベンチャーは全体の約40%となっている。大手からベンチャーまで、中国インターネット産業の基盤は北京にあると言える。その代表エリアとしては「中関村」がある。同エリアには、大学や研究機関を中心として、広大な産業パークが形成されている。
対してハードウェア志向の深センには、ものづくりに情熱を向ける起業家が集まる「メイカースペース」と呼ばれる施設や、あらゆる機器が揃うと言われている電子部品マーケット街「華強北(ファーチャンベイ)」がある。もっとも、深センはテンセントグループの拡大やECサービス関連企業の新拠点設立などにより、2014年から徐々にIT産業に強みを持ち始めているという事情も補足しておきたい。
北京は大国・中国の心臓部ということもあり、インターネット産業が最も早く発展した都市なのだが、データ量が肝となるAI(人工知能)産業も、深センに比べ圧倒的に強い。清華大学、北京大学、北京理工大学等の名門校が集積しており、優秀な人材を輩出する基盤も盤石だ。
「iiMedia Research」の発表では、全AI系スタートアップのうち42.9%が北京に拠点を構えており、深センの15.5%を大きく引き離している。高度人材が集まり、豊富なデータ量を活用したAI開発が進む北京は、AI時代においても「中国の頭脳」の役割を果たしていく可能性が非常に高い。