AIを研究していたZeilerは卒業前に、画像認識の精度を競い合うコンテスト「ImageNet」でグーグルなどの強豪チームを押しのけて優勝した。チームメイトのロブ・ファーガスにも即座にフェイスブックから声がかかった。
Zeilerのもとには、かつてインターンとして働いたグーグルを始め大手企業の人事担当者が続々と訪れたという。Zeilerによると、あのマーク・ザッカーバーグCEOが直々に面談する時間を取ったほどだという。Zeilerは結局、全社のオファーを断って自身のスタートアップClarifaiを創業したが、彼のようなケースはかなり稀だ。
テック業界の大手は大枚をはたいて人材獲得競争に乗り出している。なかでも大学でAIを学んだ学生にはオファーが殺到しているのだ。マイクロソフトリサーチを率いるピーター・リーは、優秀なAI研究者の獲得は「NFLでのクォーターバック争奪戦ぐらい難しい」と表現した。
人材関連サイトPaysaが米国企業の求人情報を分析したところ、AI研究者を募集している企業のうちトップ20社は年間で合計6億5000万ドル以上を費やし優秀な人材を探している。
最もAI研究者の雇用に意欲的なのは群を抜いてアマゾンで、年間の投資額は2億2780万ドル。募集した職の数は1178に上った。音声認識サービスのアレクサの開発に関わるのはもちろんのこと、同社はAIをすべての側面に導入しようとしている。
アマゾンの次にAI研究者の獲得に力を入れているのがグーグルで、年間1億3010万ドルを投じている。この1年で募集したAI関連のポストは563件だ。3位以降はマイクロソフト、エヌビディア、フェイスブック、インテル、Rocket Fuel、GE、Cylance、そしてオキュラスといった順番になっている。
Paysaが発表したデータで驚くのは、アップルがトップ10に入っていないどころか98位にとどまっていることだ。その一因はアップルの極端な秘密主義にあるのかもしれない。2013年にテック大手を見て回ったZeilerは、早々にアップルを候補から除外したという。
「アップルが論文を発表しないことだけが理由ではない」とZeilerは言う。
「アップルでは異なるチームの間での会話がなく、奇妙だと感じた。グーグルでインターンをしたときは、Google Brainチームがストリートビューのチームと協力していた。だが、アップルでは互いに会話をせず、それぞれの課題に取り組んでいた。大きなことをやりたいと思っているエンジニアには向かない職場だと思った」