アマゾンの新サービスは、銀行口座やクレジットカードを持たない人にインターネット通販の利用を可能にするもの。利用者はアマゾンのアカウントからバーコードを印刷するかスマートフォンに転送し、アマゾンと提携する小売店で“入金”すれば、通信販売での支払いに利用することができる。
銀行口座を持たない人はサービスの利用において非常に不利な状況に置かれることが多い。2012年の時点では、口座がない米国人は人口の18~24%と推計されていた。だが、その後は金融危機の影響が薄れていく中で大幅に減少し、2015年には7%に当たる約900万世帯にまで減ったとされる。
銀行口座を持たない理由はさまざまだ。最低預金額を預けられないという人もいる。また、金融機関を信用できないという人、セキュリティ面が心配だからという人もいる。だが、どのような理由であっても、口座がないことはオンラインでの買い物においては“障害”だ。
「店で買う」派はウォルマートを利用
米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によれば、米国では成人の約20%がインターネット通販を一度も利用したことがない。また、たまにしか使用しないという人も37%に上る。
こうしたネット通販を利用しない層が、ウォルマートにとっては「最高の顧客」といえる人たちだ。そのため同社も(こうした層にネット利用を促そうと)、2012年にはアマゾンキャッシュと同様のサービスを導入した。オンラインで購入し、実店舗で受け取る際に代金を支払うというサービスだ。
アマゾンは米国の裕福な層を顧客に取り込むことに成功してきた。アマゾン・プライムに加入しているこれらの消費者は、5000万~6000万人に上るとされる。年間99ドル(約1万円)の会費を支払い、その上で頻繁に買い物をする人たちだ。アマゾンに対する忠誠心は極めて強く、商品を探す際はグーグルではなく、まずアマゾンのサイト内で検索をすることが多いという。
だが、こうした顧客の数には限りがある。アマゾンが成長を続けるためには、新たな顧客層を引きつける必要がある。アマゾンは商品の受け取りに関する利便性を高めるため、「アマゾン・ロッカー」を設置した。そして、新たに始めた「アマゾンキャッシュ」は、購入に関する“障害”を取り除くことになるだろう。
法人向けサービスも強化
一方、企業向けの商取引サイト「アマゾン・ビジネス」もまた、ビザカードと連携した新たな取り組みを発表した。取引データの提供を拡充するものだ。
アマゾン・ビジネスのプレンティス・ウィルソン副社長は、「法人顧客にとっては、支出を容易に閲覧・管理できることが最も重要だ。ビザと協力することで、われわれはこうした顧客が効率性の向上のために必要とするより充実したデータを提供できるようになった」と話す。
アマゾンの多角的なアプローチは、今後さらに多くの顧客を引きつけることになるだろう。しかし、最も多くの人たちの関心を引き、消費者に最大の恩恵をもたらすことになるのは、ウォルマートとの競争ということになりそうだ。