中村貴裕は、東京大学大学院では惑星科学を専攻した。大手コンサルティング企業やリクルート社の新規事業開発室でキャリアを積んだ後、宇宙への夢抑えがたく、ispace社に入社。チームHAKUTOでは、現在、資金調達やパートナーシップなどのビジネス面、またリクルーティングなどの組織設計を担っている。
映画も公開された『海賊とよばれた男』のモデルとなった出光佐三(出光興産の創業者)に「経営者としての強いシンパシーを感じる」と語り、「メンバーのモチベーションを大事にした、ボトムアップ型の組織づくり」を目指していると言う。
「チームHAKUTOの特徴は、サッカーで例えるとアフリカンサッカー。アフリカの選手は圧倒的な身体能力で、信じられないようなゴールを決めます。ですが、その後、喜んでバク転を10回くらいやって体力を消耗し、連携が乱れる。それでは、最終的に試合には勝てません。チームHAKUTOも個々の能力は高いのですが、組織としてはまだまだブラッシュアップする必要がありますね」
チームHAKUTO 、そしてispace社には、日本以外の国から合流したメンバーも少なくない。「Google Lunar XPRIZE」プロジェクト後の未来を見据えて、来年までに外国人メンバーを含めてさらに30人ほど新規採用するという計画もあるという。
広く世界から人材を集めるには理由がある。それは頭打ちとなりつつある日本企業のカンフル剤となるため、世界的な視野を持って新しい産業である宇宙ビジネスを仕掛け、日本経済に刺激を与えようというものだ。
「日本企業はこれまで、IT産業やソフトウェア開発、そして最近ではAI、ロボットといった分野でもプラットフォーム競争に負け、発注先や下請けになってしまうことが多かった。結果、人材が海外へと流出し、産業競争力が落ちるというような悪循環が続いています。ぼくたちは逆に広く世界に人材を求めることで、その悪循環を断ち切りたいと考えています」
日本企業が劣勢をはねのける道は、「新しい産業で勝つこと」だとも中村は言う。そして「そのポテンシャルがあるのが、宇宙産業」だとも。
中村には、前述したチームHAKUTOでの役割以外にも、もうひとつの仕事がある。それは、ispace社の中長期なビジネス計画、そして日本の新しい宇宙産業の形をデザインすること。現在、協力関係を築ける団体とコンソーシアムを結成したり、宇宙事業に関心のある企業とディスカッションを重ねたり、忙しい日々を送っている。
「チームHAKUTOの認知度の高まりにより、多い時には企業から週に数件、問い合わせがくるようにもなりました。宇宙ビジネスに興味がある、何から始めればよいのか、また具体的な構想を持っているなど、問い合わせの内容はさまざまですが、日本でもようやく新しい産業が動き出したと実感できる毎日です」
2016年12月、内閣府の宇宙政策委員会は、宇宙基本計画に「宇宙の産業利用」「資源開発」への取り組み強化を記載している。
宇宙ビジネスをデザインする冷静な指揮官というイメージの強い中村だが、インタビューの最後にはこんなプライベートな夢も語った。
「ぼくの幼い子供は、まだ、ぼくが宇宙に働きに行っていると信じている。ひとりの父親としては、その“勘違い”を実現させてあげたいですね」
中村のほほえましい夢もまた、実現へと向かい、確実に歩を進めている。
*Forbes JAPANは、月面探査用ロボットの打ち上げまで、HAKUTOプロジェクトの動きを追いかけていく。
au HAKUTO MOON CHALLENGE 公式サイト>>